ゆず

名もなき歌のゆずのレビュー・感想・評価

名もなき歌(2019年製作の映画)
4.0
名もなき"詩"はミスチル。

予告編にある"清冽で詩的"という言葉は本当にその通り。芸術的で美しく、白黒の画面からは古典の名作っぽい趣きを感じ取れる。(←だが古典ほぼ見たことない)
一方で、画面の中で行われていることは、どうしようもなく悲しい出来事や社会に蔓延る理不尽さの描写。残酷な現実に、詩的で美しい映像でアプローチしていく。
泣き叫びながらドアを叩き続ける母親の姿に、胸が張り裂けそうになると同時に、どこか"美"や"芸術性"といったものを感じてしまう。ヤバい映画だ。あるいはそう感じる私がヤバい。

実際にあった事件が基になっている。妊婦である先住民の女性が、ラジオから流れてきた無償の産婦人科の宣伝を聞き、その小さなクリニックを受診する。しかし、無事に出産した直後、赤ん坊は引き離され、そのまま何処かへと奪い去られてしまう。そのクリニックの裏には人身売買組織があったのだ。
しかしこの映画は乳児売買の恐ろしさだけを描いてはいない。政治情勢が不安定で多くの人が貧困に喘いでいた1988年のペルーを舞台に、民族差別やジェンダー差別、貧困とテロリズムといった社会の闇を取り上げている。
顧みられない人々の、報われない物語。なのに"詩的"。この監督の才能はヤバい。
ゆず

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