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ハウス・オブ・グッチのsomaddesignのレビュー・感想・評価

ハウス・オブ・グッチ(2021年製作の映画)
5.0
事実は小説より奇なり
見終わってからの復習もまた楽しかった

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大河ドラマ「鎌倉殿の13人」、アニメ「平家物語」と、なぜだか2022年は年始から栄枯盛衰、滅亡の物語ばっかり観てる気がする。

実際の事件のwikiやグッチ家の家系図を見ると、実態はもっと複雑怪奇な権力闘争が透けてみえて横溝正史の世界みたい。映画化に際して主要登場人物を6人くらいに絞って、思惑や駆け引き関係をググッとシンプルに分かりやすくしてくれた印象。

リドリー・スコット監督、暗く重々しい重厚な作風かと思いきや、80歳を過ぎて尚こんなに軽やかなクライムサスペンスを作れるなんて。

サラ・ゲイ・フォーデンの原作「The House of Gucci: A Sensational Story of Murder, Madness, Glamour, and Greed」の映画化。2006年に映画化が報じられると、当初はアンジェリーナ・ジョリーとレオナルド・ディカプリオが演じる可能性もあったとか。その後ペネロペ・クルスやマーゴット・ロビーがパトリツィア役に交渉中、一時はリドリー・スコットの娘ジョーダン・スコットやウォン・カーウァイが監督が務める計画も進んだが、2019年になって再びリドリー・スコットが監督を務めることに。映画化が報じられた時点でグッチ家は企画を拒否したものの、グッチは映画制作に全面協力を約束。衣装や小道具の参考に同社アーカイブへのアクセスが許可されたという。(パトリツィア本人も今作に不満を表明していて、AP通信のインタビューに「私たちは本当に失望している。私は家族の代表として話す」とコメント。「金稼ぎのため、ハリウッドの収入のために家族のアイディンティティを盗んだ。私たち家族にはアイデンティティとプライバシーがある。私たちに話せないことはないが、超えられない一線がある」「私を演じたレディー・ガガからは何の連絡もなかった」と非難している)


原作を読めてないので、ネット記事とwikiだより。
パトリツィアを単なる悪女と描くんじゃなくて「ギャッツビー」「ソーシャル・ネットワーク」みたいな、愛のために全てを貪欲に求めた結果、全てを失う悲劇として描いてるのが面白い。自身の強欲のために没落するのはパトリツィアだけじゃなくグッチ家そのものでもあって、誰が勝って誰が負けたかは関係なく全員が詰む話。

レディー・ガガは元々イタリア系とあってパトリツィア役がハマる。意志が強くて負けず嫌いな佇まいが超似合う。狡猾にマトリツィオを操ってるようでもあるけど、社交的とは言えない旦那に代わって仲裁や交渉役を担ってたとも言える。真に狡賢く、奸計を巡らせる奴は誰か。黒幕に比べればパトリツィアの行動ってすごく直情的。戦略的な駆け引きってより、誰が見ても問題あるっしょて部分を直線的に問題解決できちゃうので軋轢が大きいのかなあと。
惜しむらくは、占い師ピーナとの出会い〜傾倒がアッサリすぎ。占い師に心酔してく過程が描かれないし、彼女たちの特別な関係性が見えてこないので、唐突にパトリツィアがスピってしまって面食らう。

アダム・ドライバーは「最後の決闘裁判」に続いて連投。リドリー・スコット映画に出ると酷い目にあいがち。今作のマウリツィオ役は彼にとって本当に大変だったようで、自分とは性格も背景も異なる役を演じるのに疲れ果てたよう。打ち上げにも参加せず「キャラクターを自分から追い出して家に帰りたかった」とインタビューに答えてた。
劇中マウリツィオにインタビューしてるトンボみたいなサングラスの女性ってアナ・ウィンターなのか! VOGUEの名物編集長にして、後年「プラダを着た悪魔」の鬼編集長のモデルになった人でもある。(そういえば劇中でもマウリツィオがVOGUEの表紙になってた。カメラマンのリチャード・アヴェドンの奇抜な撮影風景や謎すぎるポーズ指示も、業界に詳しい人なら失笑するのかも)
wikiを読む限り、マウリツィオは本当にハイブランドの経営には向いて無かったようで、劇中描かれるような展開はあくまでフィクションぽい。

重苦しい権力闘争劇の中で唯一の癒し・パオロ。どうしようもないバカっぷりがいっそ愛おしい。ジャレット・レトとは思えない完璧な特殊メイクがまずすごいし、明るくご陽気で嘘のつけない愛されるバカ息子っぷりがサイコー。自分自身の凡庸さを認めなたくなくて、偉大な家系がために自分にもきっと優れた才能が眠っているって幻想をしゃぶって生きてる哀れさ。実際にはデザイン感覚に優れ、グッチのダブルGロゴの制作に関わってたとか。エレガントな装いと実用性の両立を目指し、より多くの人が着られるようなデザインを提案。結果低価格路線といった経営面での対立が元でグッチを離れてしまった模様。……なんか大塚○具のお家騒動みてぇだ。


どうしてもツッコミたい、イタリア訛りの英語。ハリウッド映画の慣習に倣えば、どこの国が舞台でも英語で会話するのは普通のことだけど、今作だと中途半端にイタリア語訛りの英語で会話してるので、なんだか余計にややこしい。それでいて簡単な挨拶や単語はイタリア語で話すので違和感がすごい。全体的に巨大なコントを観てる気分になっちゃって、リアリティラインをどう設定していいか戸惑った。主要キャスト陣の生写しな演技は素晴らしいし、豪華で荘厳な語り口で人間の卑近さを暴く一方で、軽佻浮薄とも思える劇伴のミスマッチ。当時のディスコヒットを中心にするのは時代設定としてわかるけど、それ以上の意味を感じない。小さな事務所で二人が激しく結ばれるシーンの後ろで「乾杯の歌」が流れたのは笑った。



余談)
懲役29年の判決を受けて刑務所暮らしになったパトリツィアのその後もすごい。サンヴィットーレ刑務所で過ごした17年間の生活は、とても囚人とは思えない特別待遇っぷり。家族や友人が自由にこれるよう面会優遇の年間パスを与えられ、看守に囚人番号で呼ばれることを許さず「グッチ夫人」と呼ばせてたとか。ペットのフェレットまで飼って、優雅な暮らしっぷり。2011年に模範囚の彼女は、刑務所の監督下で働く機会を提案されるが拒否。「働いたことがないから刑務所内の植物のお世話や水やり係をしていたい」と刑務所を出て働くことを断ってしまう。よほど快適な暮らしだったんだろな。
結局刑期を9年残し17年間の服役を終えて2016年に出獄。現在は彼女の資産管理を手伝う協力者に囲まれミラノで暮らしているという。
2人の娘アレッサンドラとアレーグラは、パトリツィアと関わりたくないと絶縁を宣言。70歳を超えた彼女は「今の望みは?」との質問に「普通の一般人女性として生きていきたい。そして再び燃え上がるような恋がしたい」と答えた。

5本目
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