パトリツィアの一人称視点に『バリー・リンドン』や『赤と黒』を、
マウリツィオの一人称視点に『ゴッドファーザー』を、
二人の視点が重なった先に『マクベス』を。
様々な角度から何度でも楽しめる作品。
すべての主要キャラのアクが強く魅力的で、俳優たちの生き生きとした演技が印象的だ。
主演のアダムドライバー自身もこう語っていた。
「リドリーはカメラを何台も同時に回して、ワンシーンを一気に撮る」
「そのおかげもあって、舞台役者のような気分で、前のめりな演技ができるんだ」
とりわけ強烈なのがレディ・ガガ扮するパトリツィア。
本物のブルジョワ達を相手に「私だって金持ちなのよ」と虚勢を張って恥をかくシーンは共感性羞恥で苦笑いが漏れるし、
殺し屋に仕事の依頼をする際に相手からナメられまいといかにも"ワル"な風体と態度で応対するシーンは完全なコントで笑ったし、
大好きで繰り返し観てしまったシーンがいくつもある。
ジャレッド・レトもアル・パチーノもジェレミー・アイアンズも素晴らしいが、
前のめりな演技が役柄をよく反映している点では彼女がピカイチだった。
成り上がりへの野心でパンッパンに膨れ上がった自我を体現するようなパンッパンの衣裳もナイス。
イタリアの皮革工場内でのバロック絵画を思わせる色彩や、雄大な景色を滑るように捉える空撮など、映像面も賑やか。
音楽の使い方も粋だ。
『椿姫』のオペラ曲を流して身分違いの恋を暗示してから、ジョージ・マイケルの"Faith"が流れる幸せな結婚式のシーンに移る一連の流れなど最高に楽しい。
(序盤のここが今作の幸福な描写のピーク)
長尺の作品だが、魅せるポイントが盛り沢山で長さを全く感じさせない。
何度でも観たい映画だ。