新潟の映画野郎らりほう

モーリタニアン 黒塗りの記録の新潟の映画野郎らりほうのレビュー・感想・評価

3.9
【USA PATRIOT Act】


アメリカ合衆国がアメリカ合衆国であり続ける為に―。

911を受け、テロに関与 或いは何らかの情報を保持すると疑わしきは、事を起す以前に 強制連行ないし逮捕に踏み切る(グアンタナモ収容基地への拘禁)。
その為に、市民のプライバシーを大幅に制限し 必要とあらば盗聴も辞さない ― 米国愛国者法(反テロ法)の制定である。

対テロ戦争への反対を表明した者は、アメリカ連邦議会上下両院で民主党議員バーバラリー僅か1人だけ(少数報告)であった―。



上記はスピルバーグ「マイノリティリポート」観賞時に記したレビューであるが、当然ながらこの暴虐的事象が サイエンスフィクションに非ず、民主国家則ち多数の民意を汲んだ筈の実際上の社会体制下で行われた事に吐き気すら憶える。

暴虐を可能にする民主主義の万能性と その暴虐を許す民主主義の無能に、民主主義の同じ一員である私の中にもその責任はあるのだと深く戒飭する。




〈追記〉
序盤に ナンシー(ジョディフォスター)が通話する受話器の中から映したショットが存在するが、盗聴も辞さないこの時代の異常性を端的に示している。

作劇上モハメドゥ(タハールラヒム)はその大部分を狭小空間に置かれ 視野を大幅に制限されるわけだが、彼と立場の異なる弁護人のナンシーも 中佐スチュワート(カンバーバッチ)も、その殆どが暗い屋内シーンばかりであり 見晴らし良き遠景を背にする事は無い。
誰しもが有らぬ疑いに怯えた窮屈な時代の顕現であろう。



帆布とフェンスで覆われたグアンタナモの屋外シーン。
マルセイユとの別れ際に 僅かに視界に入る海辺は 彼岸=死を示しており、絶命にしか自由は無き事を暗示する。
グアンタナモが黄泉の入り口である暗喩であるが、実際上本当に(つまり直喩としても)死の入り口であった事に、私の嘆息が止む事は無い。否、止めるべきでない。




《劇場観賞》