えるどら

竜とそばかすの姫のえるどらのレビュー・感想・評価

竜とそばかすの姫(2021年製作の映画)
2.7
サマーウォーズかと思ったら、美女と野獣だった。

え、これだけ?って感じだった。壮大な冒険も、世界の危機も無い。
すずが、成長して、また歌を唄う物語。
それが良さでもあり、物足りなさでもある。

正直に言うと私は苦手でした。
正確に言うと私が見たかった細田守作品ではありませんでした。
まぁ勝手に期待してノリノリでサマーウォーズ見てから行った私が悪いですね。
でも冒頭で「ようこそUへ」って言われたらそら期待するでしょうよ。
現代版サマーウォーズだと思うでしょうよ。
全然違いましたね。

​───────ここからネタバレ​───────

とりあえず良かったとこから書いていく。

個人的いちばんはやっぱり「駅の改札口ですずとカミシンとルカちゃんが話すシーン」。
定点カメラでかなりの尺を3人でわちゃわちゃするんだけど、何個かあるすずたちの掛け合いのシーン(どれも良かった)でもこれがいっちばん面白かった!
ルカちゃんは顔を覆ったまま動かなくて、カミシンとすずが画面から出たり入ったり…。
表情も細田監督のアニメっぽいし、動きもジャパニメーションらしくて良き。会話の内容も背景の色も日本の学生青春ものって感じで「こういうのでいいんだよなぁ」って。

そして「歌のシーン」。基本的にどの歌も良くてシンプルにすずの歌が上手かったから視聴に耐えれたまである。そのくらい歌は良い。声優さん、歌手の方だったんですね。
とても綺麗な歌声でした。

あと個人的にはヒロちゃんのキャラがかなりツボだった。声に違和感を覚えることもなく、何かやらかすわけでもなく、それでいてしっかり有能な良キャラ。掘り下げがほとんど無いのが残念だったし、終盤は影が薄くなっちゃってたけど、どこを取っても魅力的なキャラクターだった。ヒロちゃんすき。

さて。
ここからはなぜ私が楽しめきれなかったのかについて書いていく。

まず、この物語は「すずの成長ストーリー」である。母に先立たれたすずは、自分でなく他人を助けた母はなぜあの時助けに行ったのかを悩み続け、母との思い出である歌を唄えなくなる。それがUでの一連の問題を経て、自分の大切なものを投げ捨ててでも他人を助けたいという気持ちを知り、あの時の母と重ね合わせることで大人になる。
とてもいい話だ。感動した。筋も通っている。…が、ここの筋を通すためにいろいろ雑な気がした。

始まって最初に違和感を覚えたのは「台詞とAsの表情」だと思う。意図してのものだと思うのだが、どこか演技っぽい台詞たちやディズニーみたいな表情とジェスチャー。まずここに引っかかった。
私はVtuberが好きなので、このVR空間の設定やベルの存在にはどうしてもVRChatやキズナアイなどを重ねてしまう。そうして考えたとき、ディズニーのようなモデルの場合であっても中身の人間がディズニーのように振る舞うことはほとんど無い。ファンタジーの住人になれた場合、その設定を守った上での自分でいるのがほとんどだ。(ロールプレイとかって言ったりもする。)ましてや自分をモデルにしたアバターで大袈裟なジェスチャーをするのはどうにも不自然に見えた。
というか、現実は背景や会話など含め作品としてリアルに寄せて作られてんのにUの中だけやたらファンタジーだったからその温度差が気持ち悪かった。誹謗中傷や罵詈雑言が飛び交うクソみてぇな野次馬がいる悪いインターネットならそんなお姫様みてぇな顔すんのは違くない?そんなアニメのキャラみたいなこと言うのは雑じゃない?

そして「ジャスティンのキャラ」。
インターネットで自称正義マンは叩かれまくって潰されると思うのだが。あと問答無用で素顔晒す開示請求したがり奴って普通に警察から止められるんじゃない?ネットに警察はいなくてもネットを管理する人間社会には警察はいるのですが…。『美女と野獣』のガストンを登場させるために無理やり竜の素顔暴きたい人にした感が否めない。

というかみんなそんな中の人の顔に興味あるのか?キズナアイとか300万人くらいの登録者数いるけどみんなが中の顔見たいとは思ってないけども。検索のサジェストだけ見たの?心と体でその人であり、そのアバターであるのでどちらが欠けても成立しないのよね。
仮にあの世界ではネットで素顔を晒すことがとてつもない屈辱だとしたらそれを無理やり強いているジャスティンは普通に名誉毀損とかで訴えられると思うし…。
顔晒してネットで活動している人がたくさんいる現代において「このビームを受けると顔を晒すことになる!怖いだろ〜!」はちょっと我々には共感しづらい。
ジャスティンがいないと最後のシーンはありえないのかもしれんけど、ジャスティンは存在自体がちょっと非現実的。これがバチバチのファンタジー作品なら許容だけど、こんだけ現代的な世界観だとねぇ…。ジャスティンこそ中の人の誰だよって。

次に「モブの声」。
誹謗中傷の罵詈雑言ね。あれシンプルにストレスなので普通に面白くない。「表現が美しくない」とかじゃなくてシンプルにもっちょっとマシな演技できるやつ使えやって。それにネットはそんなに苦しい場所じゃない。
監督はもしかしたらそういう否定的な意見をよく見るのかもしれないけれど、一般人が投稿する分には肯定的な意見の方が多いと思う。アンチの割合って全体の1割程度ないしもっと少ないそうだ。ようするにラウドマイノリティ。
まぁそれは私たちのインターネットの話なので、Uはもっと民度が低いとかなら知らないけどね。

現実味の話をするならそもそも虐待の現場を配信してしまって、かつそれを見た人がいる段階で警察に投げて終わりだと思うのだ。
あの時すずが激高した男に殺されてもおかしくない。
サマーウォーズじゃないんだから結果オーライが美談になるタイプの物語ではないだろうに。それか結果オーライでもガッツポーズできるくらいのカタルシスをくれよ。こういう中途半端なリアリティが絶妙に冷めてしまう。
全体的に少し陰湿で、現実みがあるのか無いのか曖昧な脚本があまり好きになれなかったな。細田守監督、全編通してあなたらしい映画が見たかったなぁ。

最後に。
サマーウォーズだと思わせる演出が悪い。
サマーウォーズじゃないのに。
「少女が仮想現実を通じて母の想いに気付く青春と成長の物語」とかにしといてくれよ。
それなら楽しめたかもしれない。

だから勝手に期待した、俺が悪い。
えるどら

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