芦塚あきひろ

竜とそばかすの姫の芦塚あきひろのレビュー・感想・評価

竜とそばかすの姫(2021年製作の映画)
4.1
『竜とそばかすの姫』を観てきた。池袋グランドシネマサンシャイン。最上階のIMAXシアターで。

映像は圧巻だった。いわゆる電脳世界の全方位的な空間の広がりと、無数のアバターが浮かぶ様子の表現と、主人公が暮らす四国の田舎の風景。対称的な絵とアニメーション表現の両方が美しい。

現実パートに出てくる人物がほとんど、手足がとても長くて顔が小さい、少し前のモデル体型だったのは現実感がなくて物足りなくもあったが、グラフィックに関しては、恐らくは国内最高峰の技術が使われたんだろうし、世界でも注目に値する水準だろう。カンヌ国際映画祭でプレミア公開されたのも頷ける。

主人公がネット空間で歌う楽曲と歌唱も素晴らしかった。中村佳穂という人が歌と声優を務めている。言語を超えて世界中で何億人もが熱狂する歌姫、という設定が説得力を持つかはともかく、歌のシーンが作品の大きな魅力になってることは間違いない。

ただ、多くの人が指摘する通り、脚本はかなり強引で大雑把だと思う。映画を観てる間、上に挙げた美点と脚本に感じる難点がせめぎ合うような感覚が続いた。

ネタバレは書かないが、作中で提示される「ネット上で飛び交う心無いコメント」や「正義の暴走と、それが商業的に支持される問題」が、あまり丁寧かつリアルに描かれないため、観念的なものに感じ、納得できなかった。
あと、感情的で非論理的なコメントを発するキャラクターがだいたい女性だったのも気になる。これは世界的な作家の新作なのだから、ブラッシュアップが必要な部分ではなかったか。

主人公の歌に対して賞賛が集まる一方、ネットで叩かれる描写については、どうしても、監督及び脚本を担当してる細田守さん自身の経験や問題意識がむき出しになっているように思われて、「心中お察しします…」みたいな気持ちになった。

現実パートのクライマックスも、どうにも強引だった。見せ場とメッセージのための展開。エンドロール中、これだけ美しいアニメーションを作ることに比べれば、脚本を練り上げる作業はそこまで困難ではないんじゃないか、と思ってしまった。

そして、主人公の立場には作家の個人的状況や心情が投影されているのだろうから、その主役を女子高校生にするのは避けたほうがよかった気がする。恋愛要素なんかもあまり有効でなかったと思ったので、大人の葛藤の話にしても良さそう。
予告の時点から「また制服の女子高校生が主役か」といった表徴への批判があり、僕も気になっていたので。どうしても女子高校生である必要やこだわりはないと思うんだけど。日本のアニメ、女子高生に頼り過ぎだと僕も思います。

などと文句を書いてしまったが、正直かなり脚本に弱点があるのに、そのマイナスをアニメーションと歌による満足度がやや上回るほどだったのはすごい。映像的な腕力というやつがむしろ際立ってた。
ちょっと『スター・ウォーズ』のどれかとか、『ワイルド・スピード』とか『ミッション・インポッシブル』のどれかとかの、映像やアクションの力を優先するあまりストーリーを歪めてしまってるけど、それがむしろ楽しいという作品を観た時の感覚に近い。

IMAXで、この複雑な魅力を味わってもらいたい。とはいえ、細田監督の次回作は脚本はチームで取り組んだ方がいいんじゃないかと思う。
映画学校の10分の実習作品でひーひー言ってる僕に言われたくないだろうけど。
芦塚あきひろ

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