井出

竜とそばかすの姫の井出のネタバレレビュー・内容・結末

竜とそばかすの姫(2021年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

映画も歌も、福祉ではないから、抱きしめて、勇気づけることしかできない。これは細田守なりのハグ?

シングルファーザー家庭の子どもたち。片方は、母を失い、気を病み、学校や友達に馴染めない、高知の田舎の女子高生。もう片方は、父親から虐待を受け、ネットで暴れる、二子玉・武蔵小杉あたりの高級住宅街に住む少年たち。

SNSでもう一つの自分を作り、幸せを得ようとする。もう一つの居場所。片方は能力を魅せる場として、片方は恨みをはらす場として。

SNSには、正義を振りかざして身元を晒そうとする奴らもいるし、相手の事情も知らずにあることないことだらだら言う奴らもいる。すごい風刺。

そこで、二人は通じ合う。日常に苦しみを抱えるもの同士で。現代版美女と野獣?

最後二人は直接会う。ハグをして、傷つける者に睨みをきかせる。頬から血を流す姿は、もののけ姫とかクレしんを思い出した。

みんなの苦しみに気づくことはできないが、力や悪意を振りかざす人たちに睨みをきかせ、
どうにか生きてくれと励ます。
映画は無力だけど、でも励まさずにはいられない。その諦めと驕りの葛藤ね。
多くの人に寄り添おうとすれば、人物描写は曖昧になってしまうのかも。一方で、それを補うせつめい。

幼なじみの少年は、鈴の母の思いを引き継いだ。乗り越えるまで、見守り続けてきた。
最後は鈴が痛みを受け入れ、彼らの母になる。
目の前で死ぬかもしれない子を助けるために体が勝手に動くことを知って、母の死を受け入れる夜行バス、受け入れた父をも理解したのかも。

みんなからの助けの手を払って塞ぎ込む鈴、その高校生感。
助けるといって近づき、何もしてくれない大人にうんざりし、やけになってる中学生。
父親との関係にヤキモキする子ども感。
シンジくんに似てる。

人に惹かれる理由は、結構シンプル。マダムがせつめいしてくれたとおり。

でも、苦しみがあざとなって現れたり、自慢の歌声をAIに見つけてもらえる。そんな世界あったらいいけどね。

積極的に部活動を描いたのは、去年など、インターハイといった人生において大事な行事を奪われた人に向けて、どうしてもはやくこの映画を届けたかったのかな。
学校に行って友達に会い恋をする、そういうふつうの高校最後の夏を。
あの兄弟が家にいたのは、休校してたから?仕事を邪魔することに対して怒られてたしね。児童虐待の告発件数もすごかった。
2021年の7月には公開しなければいけない作品だったんだろう。

友達のメガネの子にも共感する。卑屈。廃校で親友を引き止める姿は、けなげでせつない。

細田映画に出てくるマダムはいつも頼もしくて素敵ね。母代わりで鈴を支える。

高知の自然美もいい。沈下橋。廃校をなぜ使ったのか。

映像美。
歌も素敵だったよ。中村佳穂は役もあるから、歌声しか伝わらなかったけど。
ミレニアムパレードはアカデミー賞とるのかな。
坂東さんは久石譲みたいだった。

気になるのは駅員の無表情、顔の部分が削られた母の写真。
井出

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