鎌谷ミキ

竜とそばかすの姫の鎌谷ミキのレビュー・感想・評価

竜とそばかすの姫(2021年製作の映画)
4.8
【Uの世界は、歌の力をまだ信じている】

語り尽くされてる内容よりも、歌のレビューです。
音楽療養士というのをご存知ですか。わかりやすくいうと、老人ホームで皆が歌をうたう、それを一緒にやってる人たちは大体そうです。
私はそれを目指していましたが、物心ついてから習ったピアノで挫折して諦めました。

さて何がいいたいのかというと、それに近いことを主人公鈴のアズのベルはやっているように見えます。それは、自分自身にだったり、周りの人たちにだったり。
歌えなかった自分を音楽で"癒やす"ためにUでやり直す。「歌よ」の語りかけは鈴のもやもやもがよく出てる。「U」は歌えたことで、自分をもっと見せたい力強い楽曲。「Fama Destinata」なんてお洒落な曲もあったりします。本編ではほとんどBGMだけど(SpotifyでずっとBell聴いてる)

本作での歌は自己の開放の役割があると感じるのです。『君の名は』みたいに音楽がメインだけど、違う。ミュージカル映画といっても、使い方がちょっと違う。確かにライブ映画でもあるけれど。歌の力で物語が進んでいくこの感じ、歌うことが好きな人ならわかってもらえると思う。そこに『美女と野獣』オマージュですからね。画も美しい。
「ラ〜ラ、ララ〜♪」と河原で歌うシーン「心のそばに」実際に同じ状況の中村佳穂さんが録音したテイクを使っているそうです。中村さんは元々楽しそうに歌をうたう人というのは、ライブ映像で見ました。鈴が思い悩んで歌を考えるというのを歌声だけて伝わってくる、スゴい表現力です。

私が共感したのは、鈴がUで自分自身に対しての"癒し"を得て、相手をわかりたいという"思い"で歌の力が発揮されたあの場面「はなればなれの君へ」鈴が私の"願い"を叶えてくれたから。私もUでベルのようにやり直したい。息をするように歌いたい。

いつも賛否呼んでいるオリジナル脚本。ネットの世界は細田守監督の十八番、いつも以上に本領発揮。Uという別世界があったから、鈴は自分を肯定することができた。

竜の正体が…と感じるのもわかりますが、本作の本質はそこではないと思うんです。歌の力を映画館という空間で感じとる作品だと思うのです。

今日で2回目。もう流石に観に行けないけれど、コロナな現実を忘れて没頭するには最適な作品だと思います。
鎌谷ミキ

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