アキラナウェイ

竜とそばかすの姫のアキラナウェイのレビュー・感想・評価

竜とそばかすの姫(2021年製作の映画)
3.2
圧倒的な映像と歌。
魅力的な仮想現実"U"の世界。

細田守監督は、「サマーウォーズ」の仮想現実世界"OZ"を更に進化させてきやがった!!

自然豊かな高知の田舎に住む17歳の女子高校生・鈴は、幼い頃に母を水難事故で亡くし、父と二人暮らし。親友に誘われ、全世界で50億人以上が集うインターネット上の仮想世界"U"に参加する事に。鈴のアカウント、"As(アズ)"と呼ばれるもう1人の自分は、Belle(ベル)という名の歌姫。鈴の歌声は数億のAsを魅了する。しかし、Belleの大規模コンサートの日に現れた"竜"という謎の存在。果たして、竜の正体は—— ?

Belleの声があって、初めて成り立つ作品。
ミュージシャン、中村佳穂。
彼女の歌声でなければ、この世界観は完成しない。

なるほど、これは現代の仮想現実世界で描かれる、
「美女と野獣」の完全オマージュ。

母を亡くすという事。
父と話せないという事。
素顔を晒す、
気持ちを晒すという事。

全てを抱えた、傷ついた少女の心が歌い出すその声は力強く、虚構と現実のどちらの世界をも照らす光となる。

終盤に差し掛かるまでは、楽しめていたんだけど。
終盤のどうにも納得がいかないプロットに、観賞後はモヤモヤしてしまった。

以下、ネタバレを含めて
タタリ神が荒ぶります。













虐待を受けている子供達がいる…!!

その事実を目の当たりにして、何故鈴を1人で高知から東京に行かせたのか。これがどうにも納得出来ない。

遠く離れた東京で、実の父親による虐待を受けている兄弟がいる。そこに17歳の少女を1人向かわせて何になる?挙句、鈴は問題の父親の前に立ちはだかり、頬を引っ掻かられて傷を負う。

あ か ん や ろ ! !

児童虐待が発覚した時に、然るべき機関に対応を任せられないのか(いや、劇中で任せられなかったから、鈴が走るのだが)。人様の娘さんの顔に傷でも付けようもんなら、警察沙汰ではないのか。何故、子供達だけで解決しようとするのか。

被虐待児童である少年が言う。

「僕も立ち向かわなきゃいけないって思った。だから、闘うよ」

違う。君は立ち向かわなくていい。
逃げていい。もう、闘わなくていい。

何故この様な間違ったメッセージを投げ掛けるのか、意味がわからない。

大人を介在させてくれ。

合唱隊のメンバーが東京まで送れば良かったのに。彼女達が問題解決の一助となったって良かった。

何なら、"U"の世界でジャスティンに解決させ、単なる勘違い正義感野郎に成り下がってしまった彼に見せ場をあげたって良かった。あんなに盛り上げた"U"の世界が終盤になっておざなりにされているのも気になった。

いや、何よりもだ。
鈴の父親を同行させれば良かった。
そうすれば、高知から東京への長い道のりで、父と娘の確執が解けていく様子が描けた筈だ。被虐待児童らと娘を守り、暴力を前に身を挺して守る父親を描けた筈だ。

児童虐待というセンセーショナルなテーマを取り上げたはいいが、それなら子供達だけで闘わせてはいけない。14歳の選ばれしパイロットだけが搭乗できる、汎用人型決戦兵器 人造人間エヴァンゲリオンの物語じゃないんだから。

次世代を担うアニメーション作家として、「君の名は。」の新海誠監督より、個人的には細田守監督の方を買っていたんだけどなぁ。

映像と歌のクオリティが良いだけに、脚本だけが本当に残念。