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竜とそばかすの姫のよーだ育休中のレビュー・感想・評価

竜とそばかすの姫(2021年製作の映画)
4.0
高知県の田舎町に暮らす鈴は、顔にそばかすのある地味な女子高生。幼い頃に水難事故で母親を亡くし、ネットで亡き母への誹謗中傷を目の当たりにした事で、大好きな歌が歌えなくなってしまった。親友である弘香の勧めで《U》の世界に足を踏み入れた鈴は、『ベル』という美しい《As(アバター)》を通して大好きな歌が歌えるようになる。端正なルックスと抜群の歌唱力により、一躍世界中から注目を浴びる。


◆ようこそ、Uの世界へ。

細田守監督による長編アニメーション作品第六弾にして、現時点での最新作。脚本と原作を監督が兼任するようになってから、どうしても監督独特の癖や嗜好が露骨に顕になった作品がひしめいていました。そんな中、今作においては古き良き作品(初期作品)の雰囲気を感じることが出来ました。

今作はディズニーが映像化作品を制作したことで有名になったフランスの古典文学《美女と野獣》を現代版(細田版)にリビルドした作品だと見受けました。原案作品によってストーリーもキャラクターも大枠が固まっているので、監督の癖が入り込む余地が少なかったのかもしれません。

加えて、本作のメインキャラクターである《Asのベル》は、実際に『アナと雪の女王』『塔の上のラプンツェル』を手掛けたJin Kim氏によってデザインされているため、細田作品の中にディズニーっぽさが加わっていました。

現代版『美女と野獣』の舞台はインターネットの世界。細田監督が『サマーウォーズ』や『僕らのウォーゲーム』で手掛けた電脳空間の映像化ふたたび。技術の進歩と、おそらく予算も多く取れていたのでしょう、細部まで洗練されたデザインで、情報量が多い、美しい電脳空間が描かれていました。現実世界と電脳世界の描き方を、手書きとCGとで明確に拘りを持って区別していた演出は観ていて作品の世界にのめり込み易く、どちらもハイクオリティであり、とても素晴らしいアニメーションだと感じます。


◆俺ヲ、見ルナ!!!

『美女と野獣』と同じように、《BELLE:美女》の前に《竜》が現れる事で物語が最初の転換点を迎えます。大義を掲げて《竜》を討とうとする自警団と、大義の裏に支配欲を忍ばせる自警団のリーダー。どこかで見た様な展開が続きますが、特に既視感が強かったのが『ベルが竜の城にたどり着いたシーン』でした。城の大広間でダンスを踊るカットまで差し込まれていて、ここを見ただけでしっかりパク...リビルド!

中盤までは古典的名作の焼き増しであり、それだけでプロットの大枠は一定のクオリティが担保されていることになります。現代版の新解釈として細田的エッセンスが加えられたのは大きく二点。

思春期のスクールカーストと同調圧力。陣取りゲームの様な演出は面白いアイデアだったと思います。

そしておそらく、本作一の肝は《ネット社会の匿名性と、付随する誹謗中傷の問題》について。原作の《大切なのは外見ではなく内面》というメッセージとの親和性が高く、《As》の《オリジン》を強制的に顕現させる(現代風に言い換えるなら、晒す)特殊能力《アンベイル》は面白い発想でした。


◆私の臆病だった心を解き放ってくれたー。

中盤以降のプロットについては(今に始まった事では無いのかもしれませんが)今ひとつ。ベルが《U》の世界でたった一人姿を晒したこと。高知県から首都圏まで、女子高生がたった一人夜行バスに乗って、虐待するような父親の元へ向かったことは解せません。

虐待父を無言で制圧してしまったことも違和感がありました。女子高生の無言の圧で怯ませるなら、『アンベイルしたベルの素顔を知っていた』なんなら『虐待父の正体は自警団のリーダーだった』くらいやっても良かったような。(やりすぎ?)


You will be "U"
"U" will be you
"U" will be everything.

《U》はもうひとつの現実。
《As》はもう一人のあなた。
現実はやり直せない。
しかし《U》ならやり直せる。


塞ぎ込んでいた少女が《U》の世界でやり直すことができた後、現実世界でも前に進む姿が見られました。(周りの人が良い人すぎる問題はさておき。)とはいえ、ラストの雰囲気のまま登校しようものなら、またボロクソにたたかれる気がするんですが大丈夫なのかな。『すず=ベル』が明かされたてスクールカースト上がってるのかな?

後半は(やはり)キャラクターの行動原理に不可解な部分が目立ち、積み上げてきたストーリーをぶっ壊すように急ハンドルを切る唐突なストーリー展開が気になる細田節が炸裂していました。映像のクオリティがハイレベルなだけに勿体ない。クリエイターとして作りたい物を作る精神は天晴れですが、そろそろ脚本は第三者の意見を取り入れるべきだと思うんだ。


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みるきぃちゃんと細田作品マラソン六作目!
七夕の本日、ついにマラソン完走です!!
細田作品を改めて順を追って見返すことで気が付けることもありました。みるきぃちゃん、最後までお付き合いありがとう!