Inagaquilala

1秒先の彼女のInagaquilalaのレビュー・感想・評価

1秒先の彼女(2020年製作の映画)
4.2
これは今年観た作品の中ではベスト3に入る傑作かもしれない。「熱帯魚」(1995年)、「ラブゴーゴー」(1997年)の監督である台湾のチェン・ユーシュンが、長らく温めていた作品。彼自身は前述の2作を撮った後、しばらく劇場用映画からは遠ざかっていたが、自ら脚本も手がけたこの「1秒先の彼女」は、その間、いかに映画監督として成熟してきたかを証明する作品。かつては「台湾ニューシネマの異端児」と言われたチェン・ユーシュン監督が、脚本はもちろん、映像、役者の演技、観客へのアピールなど、映画の持つ楽しさの全てをこの作品に注ぎ込んでいる気がする。まさに彼の集大成かもしれない。

台湾にはバレンタインデイが年2回あり、これは真夏の7月にあるこの国独自の日が物語のキーとなっている。冒頭、「私のバレンタインが失くなった」とヒロインが交番に駆け込むシーンから始まり、なぜ彼女の特別な日が消失したかを、作品はたどっていく。ミステリー的展開ながら、ファンタジックな設定もあり、思いも掛けない展開へと進んでいく。当初はラブコメディの形をとりながらも、随所に細部にまで物語の伏線が張られており、最後まで映画を観る楽しみを堪能させてくれる。起用されている役者たちも端役に至るまで素晴らしく、2020年の台湾と香港のアガデミー賞に当たる第57回金馬奨で作品賞を含む5部門に輝いたのも納得できる。とにかく観るべき作品の1つとして推奨したい。
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