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シルヴィ〜恋のメロディ〜のTaiRaのレビュー・感想・評価

シルヴィ〜恋のメロディ〜(2020年製作の映画)
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架空の映画史に対するノスタルジーという変化球。1950年代に存在し得なかった映画を回想してみる。

夢を追う黒人カップルの数年間を描くメロドラマ。1950〜60年代を舞台に、当時のメロドラマを再現して見せる。ダグラス・サークやオードリー主演作の様な映画を、当時は作られなかったブラックムービーとして再現する。トッド・ヘインズが『エデンより彼方に』でやった事の延長線上にある。成功を夢見るジャズ・ミュージシャンの青年と、金持ちの婚約者がいる女性の結ばれそうで結ばれない数年間の関係。ヒロインのテッサ・トンプソンが何時もの勝ち気な感じと違って新鮮。美術も衣装も美しく、スーパー16による撮影、あざやかな照明も素晴らしい。合間合間に入る記録フィルムによる街並みのインサートも良い味。二人が結ばれても話が終わらず、割と現実的な障壁が残されていて面白い。相手を尊重するからこそ壊れる関係など。共働きに対する考え方も現代的。懐古趣味の様でいて巧妙に現代の考えを入れ込む。そもそも企画からして懐古には当たらないが。音楽も洒落てて良い選曲。劇中の演奏描写もそれ程多くせず、大事な部分を際立たせる感じ。実在のミュージシャンやレーベルの名前が出て来るが、それによって説明不要で話を進められる。マイルスに評価される程の才能があるのに!と勝手にやきもき出来る。監督が90年代にR&Bグループ(Funky Poets)でデビューしてアルバム一枚だけ出した経験とかも織り込まれてたりする。バンド辞めた後、色々苦労したんだろうな。
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