Foufou

カナルタ 螺旋状の夢のFoufouのレビュー・感想・評価

カナルタ 螺旋状の夢(2020年製作の映画)
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神戸大を卒業した後パリで文化人類学を学び、共同通信パリ支局のカメラマンを経てマンチェスター大学グラナダ人類映像文化センターに籍を置き本作制作をもって博士号取得。作り手は日本では珍しいような規格外のインテリゲンチャである。

エクアドルの誇り高きジャングルの先住民族シュアール族のリーダー格の男にただただ密着するドキュメンタリー。年寄りを自称するが長髪は黒々としていて惚れ惚れするような精悍な面構えからは、せいぜい四十代にしか見えない。いつも穏やかで思慮深く破顔すれば少年のようで、一家の長として信頼も厚い。ただ、彼らの村にもテレビやラジオは入っているし、文明から隔絶された民ではない。年を経るごとに伝統に固執するという「老人」ならではの頑なさがそこにあるのか、そもそもシュアール族が保守的なのか、ナレーションの類のいっさいないフィルムなのでにわかに感じわけがつかないが、医療従事者になった彼の息子が先祖伝来の薬草の万能性を称揚する演説を打つのからして、後者なのだろう。

口噛み酒というんですか、バナナやタロ芋を茹でて潰した上へ一家の女が勢いよく痰を吐いていく。口内の乳酸菌による発酵酒をチチャというらしく、これを男たちは仕事の合間合間に回し飲みしていく。ちょっとアレは飲めないかも……。しかし昔はキムチもそうやって作っていたと聞くし、家の味、という言い方がいかにもリアルで、チチャについても女たちがこだわりを語ったりする。仕方ない、飲むか。

密着取材する男には自身の生き様を支える確たるビジョンがある。なかなかしっかりしたものなんです。自分はかつて飲んだくれだったんだが、あることをきっかけに、なぜ妻を娶ったのか、子どもをどうするのか等々の明確なビジョンを得る。きっかけというのが、ある薬草を飲んで得た幻覚なんですね。以来、男は夜な夜な一人になって自身と対話するための時間を持つ。秘密、というわけではないのでしょう。そこらじゅうに嘔吐しながら得る夜のビジョンに、彼の昼の静穏は支えられているとは言い得るわけだ。

だから何が言いたいというわけではないこのドキュメンタリーの姿勢が、本邦の若者に刺さったのでしょうね。

熱帯雨林の樹冠にひたすらに驟雨の降り続けるのを眺めながら、夏至の過ぎたのを思い、梅雨明け間近であるのを思い知らされる。ここ最近は雨降りの日でないとなんとなく心が整わない。年ですね。もう一年の半分が過ぎたのを思い、これから日が短くなる一方なのを憂う。

男がカメラに向かって差し出すコップ入りの薬草に思わず手を伸ばしかかりながら、人生の短さを思うわけです。
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