ひれんじゃく

U・ボート ディレクターズカットのひれんじゃくのレビュー・感想・評価

5.0
YouTubeでたまたまテーマソングのテクノ版を見つけ気づけば1日一回は聞いている始末。耐えられなくなって本編を観た。だいぶネタバレをしている



















 「シュッボッシュッボッシュッボッという機関車音は駆逐艦の音」「カーンという甲高い音はソナーのそれ」だということのわからせが発生した。怖すぎてこっちまで息を殺して震えていた。あまりに緊張感がある。ブツブツと切りながら見ていたけど、それでも毎回PCの前に座ると震えるような思いになってしまった。すごい。長いのに中弛みしていない。セットで撮られた映画だとは思えないくらい没入してしまった。演技が鬼気迫っているしマジで臭気がこちらまで達しそうなビジュアル。ものすごい映画を観てしまった。

 艦長が「沈むまでに時間はあったはずなのにまだ救助してなかったのか」というシーンがメチャクチャ印象に残っている。敵を殺すために魚雷を撃ってかつ自分達が撃沈させたはずなのに、そういう言葉が出るのがまた。何回も駆逐艦に追い立てられて魚雷を投げ込まれたり、飛行機から爆撃されてもうだめだというシーンがあったせいなのか、なんのために航海をしているのか忘れかけた。気づけばとにかく生きて帰ってくれと願いながら観ていた。おそらく乗組員もそうだったと思う。最初こそ若い船員たちはヒトラーへの忠誠を口にしてたり血気盛んだったけど、段々とやつれてきてたもんな。それでいて生き残りのためには全力をかけていた。ジブラルタル突破の時はもうダメかと思ったけど皆の必死の働きでああなったんだから。船が海底に沈んだとき、もはや国からの命令がどうとか敵船を撃沈するだとか、そういうことからは遠いところに皆が居た気がする。だからあのラストで呆然としてしまったみたいなところがある。そうだ自分達は戦争をしていたんだ、みたいな。生きて帰ってくることが最終目的ではなかったんだ、という。海の藻屑になりかけてもしぶとくしぶとく生き残ってきた仲間たちが空襲であっけなく命を落としたあの瞬間、ようやく現実を思い出した、そういう感じが非常に残酷だったしうまいなあと思った。生への執着は国への忠誠や戦勝へのこだわりを軽々と飛び越えてその先へと駆り立てる凄まじいパワーを持っている。だからといって必ずそれが自身を生かしてくれるかとは限らない。何度でも言っちゃうけど浸水してたところから起死回生で海峡を抜けた「あの」メンバーが次々に死んでしまう、あのシーンを見て「生への執着がいくらあってもこんなあっけないんだな」と悲しくなってしまった。こんなにも人間は強かったのに死ぬ時は一瞬だ。

 これがただの冒険活劇だったらどんなによかったろうと思った。でもこれが戦争で、戦争の惨さで。だからこそ繰り返してはならない理由のひとつなのだろう。
ひれんじゃく

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