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スペンサー ダイアナの決意のharunomaのレビュー・感想・評価

2.5
田園風景を走る一台のポルシェが彷徨い惑うことから始まるスペンサーは、朝まだきの霜が下りた並木道の野原の固定ロングショット、車上のアップ、廊下などのバックショットの追っかけ、同じく室内のドアを背景にじんわりトラックアップ、フルショットの横移動。16mm風(16mmだそうで)の発色、ヨーロピアンビスタとガス・ヴァン・サント風のショットがおしゃれ(『エレファント』時間制限も『ラストデイズ』)。食材をベレー帽の軍隊が軍用トラックで運ぶのは恐れ入る。

彷徨の時間。
不協和音の物音、クラシック、インプロビゼーションのジャズが切れ目なく鳴り響き、統合失調症か神経症か分からぬが、ダイアナを追い詰める抑圧の描写が押し付けがましい。そこまでなら、単に分かりやすく侍従に抵抗すればいい。他王室のなんとも凡庸な顔の俳優が続く。
思わせぶりな美しいサスペンスと不穏なショットは、映画が10分、15分と冒頭から時間が経過しても、特段重要なことは語られず、車の走行やら緩やかな丘を歩くクリステン・スチュワートの歩行を切れ目なく捉えた(『ウーナ』のルーニー・マーラの歩行の身振りと比べると物語も感情もどこかちぐはぐに機能している)としても、実は一向に何も始まらないのがもどかしい。
広角手持ちのルベツキ・アプリが現代風のお決まり事として逆に保守的にすら見えてしまうのが情けない。
早口で忙しないクリステン・スチュワートの演技はアサイヤスの時と変わらず、タバコくらい吸わせればいいし、ただあやうい涙目の瞳と肩で息をする震えだけが素晴らしいが。かなり期待しただけにお話がつまらない。
都市で撮るべきだった、クリスマス前後の田舎の宮殿のクローズドではなく、切る撮る時間を間違えている。カミラとの三角関係を主軸に追えばいい。

幽霊ネタと一人芝居の心象イメージショット、幻想には辟易する。予告編のショットはほぼそれではないか。セルフすぎる。
マギーとの浜辺のシークェンスが唯一良かった。草原のツーショットなどストローブのようだ。と終わりの啖呵、解放。ラストはダルデンヌまま『サンドラの週末』だが、そう、悲鳴をあげる身体とはマリオン・コティヤールを超えていかない。
チリの監督がイギリスの王室を撮ることのでたらめぶり。

シェフ役でMISSION:IMPOSSIBLEのショーン・ハリスが少し仕事をしていた。なんとも性格俳優じみていて好感を持てる。
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