April01

スペンサー ダイアナの決意のApril01のレビュー・感想・評価

4.3
序盤にクリステン・スチュワート演じるダイアナが車から降りて歩く後ろ姿を見た時から、背筋がゾワーっとして、この姿はずっと昔、確かに見たことある!と思える再現性を感じる。立ち居振る舞い、相当研究したと思う。
次の場面で正面からとらえた顔は、もちろんクリステンなんだけれど、顔の傾げ方や、話し方など、ダイアナの特徴をよくミミックしていると感じる。

エリザベス女王の逝去を契機としてか、王室のストーリーについて色んな意見が出てきているけれど、それは英国民が自らの問題として対応すれば良い話だと思う。

少なくとも、ドラマ「クラウン」はフィクションであろうがなかろうが、当時リアルに事実として報道されていたことの再確認も含めて、興味深く視聴したし、ダイアナを演じたエマ・コリンの演技も素晴らしかった。
本作についても、冒頭に寓話であると先手を打っているのであるから、どう受け止めるかは観る者の自由ということで良いと思う。

常に生き残った者が強く、歴史や記憶を書き換えることができるという側面は否定できず、ダイアナについても記憶書き換えムーブメントは権力構造を考えれば起きて当たり前。
もちろんダイアナが完璧でなかったことは百も承知。でも完璧な人間なんていないし、亡くなったからストーリーを書き換えて良いものでもない。

そういう事も踏まえて、ミステリー仕立てに作り上げた本作で描かれる、罠にかかったような束縛による辛さには普遍性があるし、同時に解放された自由を満喫する幸せとの対比が上手い。とはいえその束の間の終わりある瞬間的で刹那的な時間の明るさの中に不穏が漂うラストに、深い余韻が残る。

「クラウン」のエマ・コリン、本作のクリステン・スチュワートというノンバイナリー、バイセクシュアルをカムアウトしている中性的な女優がダイアナを演じるとハマるという理由が、本作のサリー・ホーキンス演じる侍女の視線を描くことにより、説明づいていることも結果として面白い。

ジョニー・グリーンウッドの音楽も良い。でも一番良かったのは、マイク & ザ・メカニックスのAll I Need Is a Miracleの使い方。
この曲大好き!とはしゃぐ子供達と共にドライブする場面とそれに続く束の間の幸せは本当に切ない。
この通りのことが起きたかどうかではなく、本当にあったであろう、そういう「瞬間の気持ち」を切り取った映像として胸に迫る。
April01

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