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スペンサー ダイアナの決意のtsuraのレビュー・感想・評価

4.0
世界で最も有名な人でもあるダイアナ妃のある決断に至る瞬間を描いた本作。

人間の内面のどす黒い葛藤や心を蝕む痛み。
誰にでもあるだろう。
それが例え王室の、それも歴史に名を残す事を約束されていたとしても。

伝統とは尊いが一方で堅苦しい決まり事に縛られてもいたりしてそれが万人の安寧を約束したものではない事をこの作品は再認識させられる。いや、私達もそんな風習や伝統に則りつつも辟易としていた筈だが、王室の伝統とあっては脳内で勝手に守らねばならないものという固定観念に捉われいた自分も何処かに存在していた。

この映画は自由というものが如何に尊く儚いものかダイアナ妃の目から描かれている。

彼女の内面は最早崩壊寸前で、そのあまりにも漆黒の胸中を作中の殆どを費やして吐露するから、見る人を選ぶが今の時代、やっとアプデされつつあるルッキズム、ジェンダー…そんなものもトラディショナルな格式の前ではただの言葉に過ぎないのだろうか。
一人の女性が自由を語るという事がこんなにも難しいのか…そんな事を考えながら見ていたら…あ、これって全然この王室内の世界だけの話じゃなくて現在も横たわるフェミニズムの話なんだと。そんな事も分からずダイアナ妃の苦しみとだけ途中まで解釈してた男脳があまりにも恥ずかしい。(どんな解釈も自由だけど…)でもだからこそ最後の決断、そして彼女が眺めた決断後の世界が晴れやかに映っていたのは気のせいではないだろう。

それにしてもこの作品はダイアナ妃を演じたクリステン・スチュワートに尽きる。
彼女の演技の素晴らしさを観るためにある様な、、、と言っても過言では無いくらいの秀逸な演技に痺れる事だろう。私はリアルタイムでテレビから映し出されるダイアナ妃を見ていたから彼女の容姿はまるで違うのに…なんて思っていたけど世界が彼女の虜になったあの熱狂の頃を想起させてしまうくらい彼女、そして彼女なりのダイアナ妃に心を射抜かれた。あのセンチメンタルぶりを全霊で演じており感嘆の声しか上がらない。この演技見るだけでも一見の価値はあった。
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