ゆう

ホロコーストの罪人のゆうのレビュー・感想・評価

ホロコーストの罪人(2020年製作の映画)
3.9
原題は『最大の犯罪』なんですね。
『THE WAVE』や『es』などでも描かれている通り、人間置かれた状況・同調圧力によって、酷い行為も流されやってしまうというのは周知の事実なわけで、何故に"罪人"という個にフォーカスした邦題を付けたのか。2012年まで国として正式な謝罪が無かったことからも、複雑な事情が絡んでいる事は想像に難くない。
誰かが犯人、主悪の根源というものが見えにくい中で"罪人"と銘打つのには違和感覚えますね。

監督は38歳、当然第二次世界大戦を知らない世代な訳だが、だからこそ少し距離を置いた描かれ方で、妙な演出の起伏がない分とてもリアルに感じられた。
国民としては目を背けたくなるような事実だろうが、本国ノルウェーで興行成績一位を取ると言うのは、それだけ自分たちのルーツや国家というものに関心があるという現れでしょうか。
日本ではなかなか難しい事のように思えます。

昨日まで仲良く挨拶していた隣人が、急に政策を盾に強制退去に加担する様が本当に怖い。
こうもあっさり感情をシャットダウン出来るものなのかと。
収容所の監督官も、タバコを分け与えたり、暇な監視業務で飽きている同僚たちの息抜きにボクシングを見せてあげようという少しの温かみがあったと思えば、ひとたび逆らうとあっさり暴言と暴力を浴びせてしまう。この二面性はなにも特別な事ではなく、状況化においては誰しもが残虐行為に及んでしまう危険性を孕んでいる事の象徴のように思えました。

主人公が生き長らえ、やっと妻と再会出来たというのに、元のような新婚生活には戻れずそれぞれの人生を歩む事になってしまう未来も残酷でやるせなかったですね。
命の尊さは言わずもがなですが、燃え上がり成熟した愛もまた尊く儚いものですから。
ラスト、主人公がシャドウボクシングをしているシーンで終わるが、全てを失った彼はシャドウとしてどんな敵を創り上げていたのでしょうか。突き出す拳にどんな想いを乗せてパンチを繰り出していたでしょうか。

エピローグとして、これはブラウデ家の物語であり、ユダヤ人の数だけ物語があるという監督のメッセージで締めくくられるが、確かにドナウ号に乗せられた人の数だけ物語があり、それらに想いを馳せ、同じ過ちを2度と冒さない事が人類の課題ですね。

オリンピック開会式のディレクターが降板したことも記憶に新しいですが、本作を通して日本人としてもホロコーストというものを改めて知る良い機会になればいいなと思いますね。
ウィグル問題も今まさに起こっていることですから。
ゆう

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