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カラーパープルの散歩のレビュー・感想・評価

カラーパープル(2023年製作の映画)
3.8
近親相姦や対白人だけではなく黒人同士にもある暴力や差別や奴隷関係といった地獄のような要素が、スピルバーグ版ですらややマイルドにされていた印象がありましたが、今作はそこら辺が更に(というかセリフを聞き逃してしまうと気づかないくらいに)マイルドになっていた感じでした。ぶたれるシーンもそんなに重さを感じなかったし(そもそもミスターにそんなに怖さを感じない)、序盤のハリー・ベイリー演じるネティが馬でつけられるシーンもスピルバーグ版だと男のニヤケ面が恐ろしかったりしたんですが今作だとイマイチ状況が見えなかったりもして(このシーンは歌のせいもあるけど)。男の暴力に対しては歌詞によって言葉としてはハッキリと示されているんですが最後まで観て今作が明確にフェミニズム映画かと聞かれたら個人的には「う~ん…」ってなってしまいます。ミスターとの初夜のシーンでシュグの写真が揺れる演出とかは「あ~、作り手の意図としてはここは笑うシーンなんだ?」ってかなりイラッとしました。ミュージカルシーンもそれ自体は良かったんですが過剰に段取り臭くなっていて流れを止めているように感じる箇所もあって、しかも前半はミュージカルがあるばかりに辛いことの連続のはずなのにエピソードが次々と処理されていっているようにしか見えなくて途中までは「ブロードウェイミュージカルの映画化って企画自体がどうだったんだろう?」って疑問に思いながら観てましたね。
ただ、後半セリーが自分の能力を生かして自立していく流れは今映画として作り直した意味をすごく感じて良かったですし、個人的には観終わった後ですら「今作の男のほとんどは地獄に落ちればいい」って思いを変わらず抱いているので変にバックグラウンドを語って「実は愛していた。実はこの人にも事情があった」みたいな流れにしているのは(ホントに個人的には)モヤモヤしたものがあるんですが、でも今作がセリーの身に寄り添った赦しと人生の実りの物語だったんだなって見方をすればすごく納得ができるっていうか、セリーの歌声には素直に感動しちゃいましたね。中盤のやや説教臭い歌の数々も赦しに至る道程だったのかなって思いました。ただそこも赦しの部分が強すぎてネティとの関係にあまり盛り上がりを感じられなかったのでラストはちょっと冷めてしまいました。

スピルバーグ版でも特に不快だった市長夫人がらみの一連なんですが、今作の場合スピ版にあった「カートゥーン的演出によるバカ女のキャッキャ感」が排除されていたので市長夫人が普通に怖くて不快だったんですよね。個人的にはあそこが一番見事なフェミニズム的な改変だったかも。
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