しの

カラーパープルのしののレビュー・感想・評価

カラーパープル(2023年製作の映画)
2.9
そこまで響かず。ジャズやブルース、ゴスペルなどを取り入れた楽曲群には力強いものを感じたが、これらのミュージカルパートが段取り的であまりシームレスに感じず、また全体的に展開がダイジェスト的すぎるので、ただスクリーンを眺めるだけになってしまう時間が長かった。

たとえば冒頭、妹が家に来て開放的なミュージカルパートを披露したかと思いきや、次の瞬間には土砂降りのなかに追い出され、そして数年経ってしまう。流石に展開として極端かつ性急すぎるし、ここで姉妹の関係性の描写が薄いため後々の展開も連動して薄味に感じてしまう。

以降の前半は、ひたすら主人公が虐げられたり、周囲の女性に憧れるまま踏み出せないパートが延々と続く。ここで自分を愛せない主人公が、しかし確実に周囲に愛を与えていたからこそ、その愛が返ってくるという展開に繋がるので必要な「溜め」ではあるのだが、にしても見せ方が単調だ。言ってしまえば次々とミュージカルパートが挿入されるだけで、憧れては虐げられの繰り返し。そこにドラマの蓄積を感じなかった。投獄されたソフィアに面会するシーンも一度描かれるだけで、またすぐに数年の時間経過。そのため、ある日突然主人公が反旗を翻し、それに女性陣が続く……という場面も唐突だ。

その後の展開もあれよあれよという間に進んでしまう。家を出たかと思いきや、店を継ぎ、晴れて自立し、自身を愛せるようになり、夫は悔い改め……という怒涛の展開。もうこの辺りになるといよいよ画面上の出来事と観ているこちらの実感が乖離してくる。I’m Hereの力強さが虚しい。ラストの大団円も、冒頭シーンと対になる形が美しいのだが、正直言って美しいだけだった。全体的にミュージカルが悪い方向に作用していて、全てが「形式」になってしまっている感じがなんとも勿体ない作品だった。
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