矢吹健を称える会

カラーパープルの矢吹健を称える会のレビュー・感想・評価

カラーパープル(2023年製作の映画)
3.2
 ヴィスタのスクリーンを、メインキャストの堂々たる体躯が占有する。Anthony Hamiltonの名曲"Sista Big Bones"を思い出した。アフリカン・アメリカンの映画はそれなりに見てきたつもりだが、こんなに恰幅のいい女性ばかり出てくる作品はちょっと知らない。H.E.R.ですら色々とデカい。
 中でも際立って素晴らしいのが、タラジ・P・ヘンソン。劇中でも美人と評され、誰よりも独立独歩な人生を歩める、まあお得なキャラクターではあるのだけれど、余裕たっぷりに演じていて良い。また、ソフィアを演じたダニエル・ブルックスも、さすがブロードウェイでの当たり役だけあって押し出しが強烈。夫とのセックスをあかすけに唄いながら家を出ていくシーンは笑った。

 コーリー・ホーキンズが建てる沼の中の家(のちにジューク・ジョイント)も面白い。結構ありそうでない舞台装置だと思った(『グレート・ディベーター』で似たような小屋が出てきた覚えがあるが)。ここでもタラジ・P・ヘンソンが目覚ましいパフォーマンスを見せる。

 ファンテイジア・バリーノ(『アメリカン・アイドル』で発掘されたあのFantasiaだ)がブチギレる食事シーン。ついにやったぜ、というシーンではあるのだが、同時に複雑な気分にもなる。ブチギレの裏には「タラジ・P・ヘンソンとの新生活」という保証があるのだが、それって見ようによっては、依存先が変わっただけなのでは、という気がしてしまった。また、直後に父親の遺産を相続する件も、棚からボタモチみたいな話だ(ただこれは、コールマン・ドミンゴが父親から土地を相続したために人生が狂ったと考えている件と対称的なエピソードだろう)。
 いやつまり、何が言いたいかというと――この時代には、資産か才能かコネを持つもののみが思うままに生きることが出来て、ファンテイジア・バリーノはたまたま人生の後半で、奇跡的にその幸運にめぐりあった、というだけの話に見えてしまったのだ。それはある意味で真理だとは思うけれど、物語が描くテーマとして、それでいいのだろうかと思ってしまった。

 あと、コールマン・ドミンゴが唐突に改心するクダリは私も「唐突やなー」と思ったが、ラストの食事会でのファンテイジア・バリーノとのやりとりを、嘘くさいと否定はできなかった。長年共に暮らした相手への複雑な愛憎の気持ちってやっぱりあると思うので。