コウ

カラーパープルのコウのネタバレレビュー・内容・結末

カラーパープル(2023年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

ザ・ミュージカル映画!
どのナンバーも素晴らしく、実際にブロードウェイの舞台に立っているファンテイジア・バリーノをはじめとした、実力あるキャストたちの歌声と存在感はさすがと言えます。魅力的な楽曲と圧巻の歌声への感動を加味しての評価です。

事前にスピルバーグ版を視聴していた事もあり、ストーリー性に関しては正直そちらに軍配が上がるなと感じてしまいました。
性的虐待や暴力、男女・人種差別描写、それらによる登場人物たちの痛みや苦しみに対する解像度や重みの比が違うなという印象は否めません。
結末に関しても個人的には前作の方がしっくりきました。

しかし、今作はあくまで舞台版を脚色したミュージカル映画。
頻繁にミュージカルを観劇する立場からすると、実際に舞台上で演じられている作品の様な場面展開にはテンポ感の良さを感じましたし、小説ベースの作品とはアプローチが異なるのも納得できます。
演者の実力ある歌唱によってストーリーが補完されている部分も多く、作品が伝えたい言葉やメッセージを心震えるような歌声でもって感じることができるという点では、ミュージカル映画としては正解だと感じました。
(ミュージカルに不慣れな方からすると、逆にそれらが不自然に感じられるかもしれませんが…)

どのキャストも素晴らしかったのですが、個人的にはダニエル・ブルックス演じるソフィアの存在感が抜群でした。
彼女が歌う ”Hell No!” の素晴らしさで一気に心を鷲掴みにされましたし、スクリーンだけでなく実際にブロードウェイの板の上で歌う彼女をこの目で観たかった!と、強く思わされました。
ソフィアという女性の芯の強さを持ってしても折れてしまう程の、差別と現実。それを経験しても尚、再び強さを取り戻して蘇った彼女の生き様は、簡単に真似できるものではありません。
セリーが強さを顕にした食卓のシーンで、ソフィアがセリーの事を神だと思ったと告げますが、前作同様に、このシーンでは涙が止まりませんでした。
ソフィアという女性を見事に演じきったたダニエル・ブルックスに拍手を送ります。

主人公セリーを演じたファンテイジア・バリーノも素晴らしかったです。
セリーは一見するととても弱い存在に思えますが、決してそうではなくて、あの過酷な環境で苦しみながらも生き続けるだけの強さを持っている女性なのですよね。それを表に出せるだけの勇気と覚悟が、まだ持てていなかっただけ。
そんなセリーが、ソフィアやシュグといったタイプの違う女性たちの強さに影響を受け確実に変化していく様が、説得力のある演技と歌声で表現されていました。
生まれ変わった人生を美しい笑顔で伸びやかに歌い上げる “I’m here” は、涙無しには観られませんでした。この曲を歌うのが、自分の努力によって手に入れた場所というのがまた良いですよね。

ラストはミュージカルらしいハッピーエンド。
これまでの経緯を思えば、セリーがミスターという人間を赦す事は並大抵の努力では無理であろうと感じてしまいます。
しかし、神は人間に ”愛と赦し” を与える存在なのです。
大雨の夜に畑に倒れたミスターは、神に赦しを乞い、叫びます。目覚めた彼が手にしたあの一通の手紙は、まさしく神からの贖罪の恵みであったのではないかと感じます。それを正しく受け取り行動した彼を、神はその愛でもって赦されたのではないでしょうか。
そして、そんな彼を神のように広い心によって赦したセリーの元へ、最愛の妹が子供たちと共に戻って来るのです。
ソフィアがセリーの中に神を見たと言った言葉が、ここでも思い出されました。

“あなたのことを考えなかった日はない”
“私の魂はあなたのおかげで乗り越えられた”
優しく力強い歌声による “SUPERPOWER (I)” と共に、セリーの半生が映し出されるエンディングがまた素敵でした。
キルトのような鮮やかなイラストでダイジェストのように流れる彼女の半生は、裁縫という武器で人生を立て直したセリーが、これまで必死に紡いできた生きた証なのですよね。
自分の中の神と和解し、これまでの痛みや苦しみを赦し、手放したセリーが、それらを思い浮かべながら歌っているように感じられました。

前作でソフィアを演じたオプラ・ウィンフリーと監督のスティーヴン・スピルバーグに加え、音楽を手がけていたクインシー・ジョーンズが製作総指揮として参加。主演を演じていたウーピー・ゴールドバーグのカメオ出演もあり、前作へのリスペクトを感じつつも全く新しいアプローチで作られた現代版カラーパープルでした。
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