夏藤涼太

漁港の肉子ちゃんの夏藤涼太のレビュー・感想・評価

漁港の肉子ちゃん(2021年製作の映画)
4.2
スタジオ4℃×渡辺歩×西加奈子と言われたら見ないわけにはいかない……と思いつつ見損ね続け、ようやく見た。

関わっているスタッフは"本物"だが、それ以上に、「明石家さんま:企画・プロデュース」「製作:吉本興業」「主演:大竹しのぶ・Cocomi」という"金の匂いのする作品"感をどうしても一番に受け取ってしまう。

しかし、その印象は間違っているようで、ある意味では合っている。

確かに本作にはお金の匂いが沸き立っているのだが、それは「金を稼ぐために作られた作品」という意味ではなく、「明石家さんまという一人の人間の寵愛によって莫大な金が度外視に注がれて成立した高品質な作品」だからである。

この原作をアニメ映画にしようと考えたのが誰なのかはわからないが、その発想は天才的だと言うべきだし、これだけの錚々たるスタッフを集められたのは、明石家さんまと吉本興業の金があってこそである。
主演2人の演技も、何の問題もない。下手な声優より上手なタレント、だ。

ストーリー的な起伏は弱く、どちらかというと、北陸の漁港町の家族と子供の日常を描いた、淡々とした物語。
この点でも、アニメ映画にするのは無謀と言えるし、さんまプロデュースではなく、別の所から融資を受けて作っていた場合、「映画的な物語構成にしろ」と改変させられていてもおかしくないくらいだ。

しかし、日常を淡々と描くからこそ、伝わるものがある。

キャラクターはコミカルだし、アニメーションはファンタジックだけれど、真面目に設定を読み解くと、普通に限界貧困層(それもいわゆる貧困の連鎖)の話で笑えないし、 女性の生きづらさや、小学生女子のリアルなグループ対立の心理などなど……"作り物のストーリー"ではなく、めちゃくちゃ"現実"の話を描いているからだ。そこに、"奇想天外でエンターテイメントな物語"はいらない。

チックの二宮くんや、いわゆるデブスな肉子ちゃんはもちろんのこと、一般的には物語的には批判的に描かれがちなみうも、「ちゃんとした大人なんてものも、いねんら」というサッサンの一言で、すべて肯定される。そしてもちろん、"現実"に存在するすべての人たちも。

このあたりの器のデカさは、さすがの西加奈子節である。

最後に。
本作の映画には、なぜかトトロのパロディやオマージュが溢れている……のだが、よくよく見ると、トトロ、あるいはジブリというより、アニメーションとしてのカラーは、どう見ても「劇場版ドラえもん」みを感じるのは、自分だけだろうか。

まぁ、渡辺歩なので当然といえば当然なのだが。
夏藤涼太

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