ねこみみ

スーパーノヴァのねこみみのネタバレレビュー・内容・結末

スーパーノヴァ(2020年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

ちょっと想像とちがって、描かれるのはほんの数日の出来事だった。

2人が同性愛者であることには一切触れられず、ただただ愛し合う大切なパートナーとして話は進んでいく。
私たちは彼らが紡いできた膨大な時間の、ほんの一部しか見させてもらえなくて、それが、良い。

最近増えた印象のある、設定の説明のためのセリフもない。画面上で起きることから、状況を少しずつ理解していく。

彼らがどうやって出会って、どんな困難を乗り越えて、こんな素敵な仲間に囲まれて、今まで生きてきたのか。
2人で暮らす生活がどれほどの長さで、どんな毎日を送ってきたのか。
すべて想像するしかなくて、だからこそ、彼らの“今”に集中できた。

彼らの心の内が徐々に見えてきて、それがやがて大きな波となって、観客の心をえぐり始める。
映像も音楽も美しく、その美しさと2人の置かれた悲痛な現実の対比に、胸が張り裂けそうになる。
画面から流れ込んでくる感情は大きく苦しくなるばかりで、後半は永遠に涙が止まらなかった。

人間関係に対するものではない形で発された
「失うのが悲しいのなら、それは良きものだったんだ」
という言葉の重みが尋常でなく、嗚咽。

失うというマイナスの感情に支配されそうな出来事を、プラスの意味で解釈する。それを彼自身が言うことで、深く深く胸の奥底に沁み渡る。

世話をし続けられるか悩み抜いて、それでもやっぱり失いたくない片時も離れたくないと覚悟を決めたサム。
何もかもわからなくなってしまった自分の姿など、愛する人に絶対に見られたくない、そんな自分を記憶してほしくないというタスカー。
愛するからこそできるだけ長く最後まで一緒にいたい、愛するからこそ迷惑をかけずに自分が自分でいられるうちに終わらせたい。
どちらも痛いほど理解できて、正解も逃げ場もない現実に、ただただ涙を流すことしかできない。
2人に共通するのは、お互いがお互いを愛していて、お互いがお互いを失う時が近づいているということ。

名優2人が素晴らしかった。
信じられないほど泣いてしまい、こんな日に限ってハンカチを忘れ、カーディガンの袖とマスクがめちゃくちゃ濡れた。

これを男女のカップルで描くとおそらくありきたりな悲しいラブストーリーの部類になったのだと思うけど、男性同士だからこそ、「替えのきかない、大切な存在」としての人間関係がより強調され深く表現できていると感じた。ラブストーリーではなく、家族愛に近い。

私はこの映画の良さを理解できるような人が好きだと思った。
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