アラサーちゃん

スーパーノヴァのアラサーちゃんのレビュー・感想・評価

スーパーノヴァ(2020年製作の映画)
3.5
「きっと苦しいと思うんだ、まだ生きている人を悼むのは」
「君を忘れていく僕を、君に記憶させたくない」

鑑賞前に予告をよく観たおかげで、少々期待値をあげすぎたのか軽い肩透かしを食らいましたが、めちゃめちゃ良い映画だった。中年男性の色気と繊細さが画面からにじみ出て、美しい景色や静かな音色と相まって、とても心に沁みました。

長く連れ添ってきた音楽家のサムと作家のタスカーの旅。それぞれの心の奥に秘めた想い。相手への深く尊い愛情と、それゆえに抜け出すことのできない悲壮。
切ないですね、相手を思うからこそ、相手の想いを受け入れることができない。相手の望みをかなえてやることができない。
それが真の、「愛しい」とか「寂しい」とか、そういう次元を超えた愛の形なのかな。

パーティーのさなか、タスカーはサムの姪と星空を眺める。人差し指と親指でわっかを作り、そのなかから夜空をのぞき込んで彼が尋ねる。
「何が見える?百万の銀河?」
「数えきれないわ」
タスカーの冗談に彼女が答え、ふたりは笑う。

きっと、そういうことなんだ。片手で作ったわっかの先に見えるものも、立派な望遠鏡で覗いた先に見えるものも。そこから覗き込んで見えるふたりの思い出は、数えきれないほどたくさんあって、何にも負けないくらいに輝いていて。
どんなときも手を伸ばせば、長い年月を愛情と共に過ごしてきたふたりには、すぐに見えるんだと思う。
なにもない真っ暗な夜空でも、幾千の星が輝く眩しい夜空でも。