ノラネコの呑んで観るシネマ

なんのちゃんの第二次世界大戦のノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

3.6
怪作。
吹越満演じる市長が、平和記念館の設立をぶち上げる。
教育者だった彼の祖父は、戦時中から平和主義を貫き、街の偉人とされる人物。
ところが、BC級戦犯の遺族が、それは真っ赤な嘘で祖父は軍国主義者だと記念館反対を訴える。
モチーフそのものは分かりやすい。
祖父は本当に平和主義者だったのか、それとも日和見主義の卑怯者なのか。
市長と遺族の攻防を軸に、大量発生している侵略的外来種の亀が象徴的に描かれている。
演出はエキセントリックで面白かったし、力作だとは思う。
だけど、どっち側にも共感は出来ない。
なぜなら、全ての登場人物の視野がメッチャ狭いのだ。
主観的に時代を知る、戦争体験者ならある程度仕方がない。
しかし市長や遺族たち、戦争を知らない世代までもが、親世代から聞いた話だけで動いていて思考停止。
それ以上に、自分から戦争を知ろうとしていないのだ。
たとえ嘘でも平和記念館を作ろうとする者も、偽善者と罵る方も、私には目の前の物しか見えていない同類に思えた。
主観によって語られる歴史の危うさを、戯画的に描く試みはユニークだが、結果的に戯画のフレームの中から一歩も出られなくなってしまった。