YasujiOshiba

ある用務員のYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

ある用務員(2020年製作の映画)
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リトライのU次。23-16。『ベイビーわるきゅーれ』が良かったので、その出発点になったこれをクリック。そこそこ。マンガ。

冒頭は悪くなかったんだよね。でも、子供の表情がだめ。野間口徹は存在感があるけど、ヤクザに見えない。「わるきゅーれ」のベイビーたちはピッタリハマっていたのに、こっちは「ハイ持ってきましたよ」感が垣間見えちゃう。

ところどころ抜群にキレるギャグ、あるいは異化効果あり。大坂健太のオタクの殺し屋、前野朋哉の本田とか、そしてもちろん、われらがベイビーのふたり娘リカとシホ(髙石あかりと伊澤彩織)は面白い。でもそれって、ほとんど吉本新喜劇のノリ。キャラで引っ張るだけ。

骨組みがだめなんだろうな。『ベイビー』のほうは、そこがよかった。キャラが動くような設定。多少展開に無理はあっても骨が通ってた。でもこちらは、セリフの説明が過剰。説得力はギャグとオーバーアクションに、ショットを決めてカットでつなぐテクまかせ。

まあ、それはそれでわるくない。でも、「なぜそうなる?」が浅すぎて、福士誠治の晃=用務員のキャラが最後まで爆発しない。だから欲求不満。

それでも血だらけになって戦う男たちを見ている唯/芋生悠(いもう はるか)の表情はすてき。だからラストも生きた。

ぼくはふと『イリアス』を解説したバリッコの文章を思い出した。ちょうど授業で説明したばかりだったから。

曰く、戦争には敗者がおり、残酷な振る舞いがあり、女たちが失われる命を嘆き悲しむ。それれでも戦争は美しい。英雄たちの輝かしい戦いの圧倒的な魅力には抗い難い。そんなことが書いてあったと思う。

芋生悠のひとみには、英雄たちの戦いの美を目の当たりして、すこしずつ引き込まれながらも、どこかで抗おうとする頑なさがあった。抵抗の輝き。それこそがこの日本映画を救う。ぼくはそんなふうに思ったわけ。

そろそろ忙しくなりそうなので、次の阪元裕吾は『ベイビーわるきゅーれ2』かな。それまでしばらくおやすみ。
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