ノリオ

新宿インシデントのノリオのレビュー・感想・評価

新宿インシデント(2009年製作の映画)
3.6
もろジャッキー世代ではないが、それでも『シティーハンター』を劇場まで見に行ったのだからやはりジャッキーの影響は色濃く受けているのかもしれない。
そんなジャッキーがアクションを封印すると言って久しいが、『シティーハンター』以降なんとなく注目しなくなったので「まあ、歳も歳だし」という印象くらいしかない。

ジャッキーが挑戦したのが任侠映画。舞台は香港ではなく日本、それも新宿。

中国人密入国者の目線から日本を描いているのだが、これが意外と今までに描かれていなかったことに気付かされる。
牛丼屋やファストフード店で当たり前のように働いているアジア人。日本人は彼らをお客さんという感覚でしか見れていない。アメリカのように他民族で国家を形成するという概念が稀薄なんだろう。

日本という国に頼れるものは金しかない。彼らの孤独の拠り所は“仲間”しかなかったのだろう。それ故に徒党を組むことでしか差別や貧困に対抗できないなかったのである。
ジャッキー扮する鉄頭は生き残るために人を殺す。
密入国した日に、ヤクザに認められるために、ジャッキーは人を殺す。
派手なジャッキーアクションは皆無。むしろジャッキーはアクションの“型”が出ないように抑えており、人を殺すために必要なものを“技術”ではなく“覚悟”として描いている。

ある程度“任侠映画”の定型に嵌め込んでいるが、それでも中国人からの視点という意味での任侠映画は日本人には描けないのかもしれない。日本人が思っているよりも、中国人と日本人の関係性は密接なのかもしれない。

因果応報ではないが、一度悪に手を染めた鉄頭が簡単に堅気に戻ることはできない。
必要悪として覚悟をもってその手を染めたとしても、やはり制裁されるのならば、貧困層から這い上がるためにはいったいどうしたらいいのだろうか。
ラストシーンでそのスパイラルから必死に脱出しようとしている鉄頭の悲哀が胸に突き刺さる。

ジャッキーはアクションを封印しただけではない。オーバーアクションもおふざけもない。
終始映画に蔓延している悲観的な悲哀。オールドジャッキーファンはいささか物足りないかもしれないが、それでもジャッキーの新たな挑戦は充分に見る価値があるはずである。
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