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戦場のメリークリスマス 4K 修復版のSQURのレビュー・感想・評価

4.0
戦争は映画と相性が良くないと思った。
戦争のコンテクストは強力で、そこで描かれる全てのものを強引に善悪判断の言語的なプロトコルの上に引き出してしまう。そして、その倫理的判断は支配・被支配、強者・弱者といった二項対立に依存している。その非日常的なシチュエーションはさらに言語の世界を加速させる。
つまり、どんなに感覚的美しさえを描こうと、人倫を描こうと全てが、"戦争という非道徳的な出来事の中にも関わらず"という接頭語を伴ってしまう。『シンドラーのリスト』などもそうなんだけど、「戦時中なのにいい人」といった感じだ。自然を描いてもそれは「戦火にあっても美しいもの」になってしまう。国破れて山河あり。

観ている人の言語的判断を強引に生起させる、そういった点で宗教も戦争に似ている。

この映画はそういった戦争を描くことの避けようのない倫理との親和性(雑な言い方をするなら"説教臭さ")に自覚的であるように思った。ヨノイやハラの中盤以降の行動は特に、そういった理解可能な"人情"や"仁義"としては描かれず、一種錯乱のように描かれている(と感じた)。もちろん、私がこのように言語化しようとしている時点でその全てが上手く言っているとは思わない。しかし、「戦争の中にあっても人間は人間なのだ」ということを、ただ単に現代的人間性を言葉や行動によって直接描くのではなく、あえてやや俯瞰的で距離を置いた視点から映すことで、逆説的に描けていたようにも思う。
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