minoru

戦場のメリークリスマス 4K 修復版のminoruのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

様々なテーマが内包されているとはいえ、私の想像以上に同性愛的感情の揺らぎが大きな要素として据えられていた。

戦時中の俘虜収容所という異常状態かつホモソーシャルなコミュニティにおける同性愛的な感情の行き場・発露について考えてしまい、大学時代にセクシャリティの揺らぎで悩んだ、極めて私的な感情と体験を重ねてしまわないではいられなかった。

ヨノイは突如自分の中に生じた感情に困惑して、稽古に異常に邁進したり、過剰な処罰を命じたり、部下に気づかれるほど惑わされているが、それを受け入れることはできない。
ヨノイがセリアズに向ける態度は、受け入れたくない感情に振り回される弱さの裏返しで、極めてエゴイスティックで幼稚なふるまいでもあり、そこに武士道や軍隊のエッセンスが入り混じった複雑なものだ。

一方のセリアズもままならない思いを抱えている。
ホモソーシャルな社会はしばしば弱さを否定し、ふるいにかけ、嘲笑の対象とすることで連帯を強くする。それはセリアズの弟がスクールで晒し者になるシーンに表されている通りだ。
彼の後悔は、弟の愛した花と歌が随所に散りばめられることで見事に表現されていたと思った。


映画のクライマックスでもあるキスシーンにおいては、これまでの緊迫すべてが崩れ、憑き物が落ちるような感動があった。この一瞬のためにここまで観たのかと思った。

混沌の中にいるヨノイにセリアズが自覚的であったこと、そして、セリアズの弟が発したSOSに向き合わなかった後悔が、ヨノイへのキスという博愛的行動に繋がったのではと感じた。

規律と切腹、それと対比する形で自由とキスが描かれていたのがすごく良かった。
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