くるぶし

茲山魚譜 チャサンオボのくるぶしのレビュー・感想・評価

茲山魚譜 チャサンオボ(2019年製作の映画)
3.9
この作品が一編の詩であり、人が何を糧に毎日を営み、学問を活かすべきかという「命の根源」にまつわる物語でした。

島流しにあった学者の先生と、その島で漁師をする青年。年齢、職業、身分や肩書き、なにもかもが異なる主人公ふたりは、知の共有をしながら友となり、自身の“生”とも対峙する。
果たしてふたりの知を集結した「魚譜(魚図鑑)」は完成するのか…。

誰かが知らないことを自分が知っていたら、教えてあげる。代わりに他のことを教えてもらう。
本来、人間はそうやって進化を続けてきたのだ。うん、すごく当たり前のこと。でもそれを意識して毎日を過ごしている人はそんなに多くない。

全編ほぼモノクロ映像のため、見る前は「眠くなりそう」と少し心配していたけれど、序盤から引き込まれました。
海辺で暮らす人々の表情は陰影がはっきりして生き生きと見え、時代劇における「あ、嘘っぽい」と急に冷めてしまうような細かなディティールを気にせず物語に集中できる。これはよい誤算。

そして静謐な物語かと思いきや、ふたりが交流をはじめるまでのくだりや、村の人々のやりとりはとてもコミカルでとっつきやすい。

本作で昨年から今年にかけて数々の映画賞を受賞しまくっている名優ソル・ギョングはもちろんですが、個人的には相棒の漁師役を演じたピョン・ヨハンの存在はキラキラと輝いてみえた。
何気にこの物語の展開の軸となる人物であり、彼の動向でストーリーが変化する。

あと忘れてならないのが、やっぱりこの方。「パラサイト」でおなじみのイ・ジョンウン女史が圧倒的なチャーミングさで、もうもうもう!大好きです。

後半は予想通りの展開でこんな感じかーと見終わった直後はサラッとしてましたが、3日後、1週間後…思い出してじんわりほっこりする作品。
まるで天日干しされたスルメイカのようだね。
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