るるびっち

ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイのるるびっちのレビュー・感想・評価

3.8
裏切りの物語である。
ドラマは葛藤だという。
騙される人間と騙す人間が居たら、騙す方が葛藤がある。
特に裏切り者ほど、葛藤を抱えやすいと思う。
何も悩まない正しい人より、裏切りばかりを抱えた人物の方がドラマとしては複雑だろう。
キリストよりユダの方が、抱えた悩みは深い。
問題は、観客が裏切り者に感情移入できるかだ。
それが出来たらユダや明智光秀は、キリストや信長より人気が出るに違いない。

なので主役のビリー・ホリディより、ファンと偽って近づいたジミーの方が葛藤はある。白人の手下として、同族を逮捕するのも辛いことだ。
反省して組織を裏切り、彼女を支えるジミー。
当初、薬物中毒による逮捕を企んでいたのに、薬物よりも自分への愛を選ぶように献身するジミー。
だか、今度はビリーの方が裏切る。
愛で心を埋めることは出来ず、彼女は薬に溺れる。
薬を選び、そして別の男を選ぶ。
裏切り者のジミーは、愛に裏切られるのだ。
ジミーと愛し合うシーンで、彼女は顔を見ないで後ろから激しく責められることを求める。
欲望として性処理をしているのであって、顔を見詰め合って優しく互いを求めるという行為ではないのだ。

黒人差別の現状を暴露した歌を歌うビリーを、何としても引きずり下ろしたい白人側はあらゆる汚い手を使う。
しかし彼女が困惑していたのはそんな攻撃より、男たちの愛を解っていながら、どうしてもそれに答えられない葛藤の方だったのではないか。
矛盾と葛藤があるからこそ、いつまでもビリー・ホリディの歌声は心に残るのだろう。
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