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ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイのsomaddesignのレビュー・感想・評価

5.0
奇妙な果実についての暗い歴史を改めて学ぶ

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ヨハン・ハリの原作「麻薬と人間 100年の物語」の映画化。
44歳の若さで亡くなった伝説的ジャズ・シンガー:ビリー・ホリデイ。彼女の代表曲「奇妙な果実」は、リンチによって殺され吊るされた黒人たちの姿を唄う人種差別を告発する内容だった。合衆国政府は人々を扇動する音楽として危険視、FBIにその萌芽を摘むことを命じる。

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復習頑張りすぎてしんどい(´o`;
1972年のダイアナ・ロスの女優デビュー作「ビリー・ホリデイ物語/奇妙な果実」を今作の復習で鑑賞。今作に比べるとだいぶマイルドに感じたけど、時代背景を考えるとしょうがない気もする。ハリウッド自体まだ白人中心社会だったろうし、フーバー長官やアンスリンガー長官が健在だった頃だし。
2019年の「Billie」も見なきゃ(若き女性ジャーナリスト、リンダ・リプナック・キュールが60年代から10年かけて関係者にインタビュー。時には何者かによって妨害されながらも、ビリーの伝記を書き上げようと尽力した。が、リンダもまた志半ばに不可解な死を遂げてしまう。残された200時間に渡るインタビューテープを元に、生前のビリー・ホリデイの映像とともに作られたドキュメンタリー)


wikiを流し読みした程度でも、彼女の過酷で波瀾万丈な人生っぷりに驚く。
2015年に出版された原作の中から、ビリー・ホリデイに関する項を映画化したとあって、これまでの映像化で描かれることのなかった要素も多そう。にわかに信じ難い部分も多いので、あくまで映画として見るのが良いのかも。出来事の真贋より物語を通じて麻薬の恐ろしさや、当然のように差別が横行する社会システムの横暴を見る作品として見た。ビリー・ホリデイの半生と当時のアメリカ社会の差別構造を描いた作品としてはもちろん、「麻薬怖い」映画としても傑作。


様々なセクシャリティの人が多く登場する。監督自身ゲイを公表してるのも関係あるだろうけど、人種問題だけじゃなく、様々な理由で分断され、差別を受けてる人たちへ手を差し伸べてるようにも感じた。

予告編からは硬派な社会ドラマかと思いきや、ヌードやセックスシーンが多かった。ステージ上の虚飾を脱ぎ捨てた、剥き身のビリー・ホリデイ自身の姿だし、(麻薬やアルコールと同様に)辛く過酷な現実から逃避するためにセックスに溺れている姿でもあって、エロさより痛々しい濡れ場シーンだった。愛に飢えてのに、肉体関係でしか関係性を築けない・確認できない悲しさもあるようで深い絶望が滲み出る。


ビリー・ホリデイを演じたアンドラ・デイの熱演が良かった。BLM運動のデモで歌われた「ライズ・アップ」を歌ったアンドラ・デイがビリー・ホリデイを演じるのが面白いし、不思議なご縁。今作が映画初主演な上に、演技経験もなかったというから驚き。当初は監督はじめ彼女自身もビリーを演じるのに難色を示していたそうで、演技レッスンを受けながらも何度も降板を考えていたそう。練習を重ねたのち監督の元にデイの演技を収めた30秒の映像が送られた。その映像を見た監督は「ホリデイを演じるアンドラ・デイじゃない、ホリデイ本人だ」と絶賛。正式なオーディションを経てデイの起用を決めたという。デイ本人は撮影終了後も役が抜けず「どこかで決別したくないと思っている。二人の魂が交わってる感じが嬉しい。本当はもうビリーから離れないといけないが、なかなか大変です」と語ってた。

ビリー・ホリデイの生涯や今も残る人種差別を告発する映画だけど、自分には心底「麻薬おっかねえ」映画だった。麻薬に手を出すのは悪いけど、そうでもしないとやってらんない過酷な現実。身近にドラッグを置いとくことで、搾取する男どもにはコントロールしやすくなるって面もあるだろうし。


14本目
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