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ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイのbibooのネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

字幕が特に説明が少ないのでちょこちょこググりながら見た。恋多き彼女の遍歴も目まぐるしいし、ざっくりと彼女の経歴を知ってからみた方が格段にわかりやすい気がする。じゃないと、この人誰やねん、何してる人やねんが多発する。生活が踊る歌の音楽コラムでも言われていたように「奇妙な果実」を歌うきっかけをはじめ、表層のきっかけだったり彼女の経歴に関してはある程度周知の事実として進んでいく。ドキュメンタリーとか伝記で補填して初めて今作をしっかり噛み締められる気がする。
でもその中でも表でよく言われる恋多き面や薬物中毒などのエピソードの中に、ほとんど知られてない壮絶な史実が差し込まれていて、ひとときも目を離せなかった。劇中ではずっと出ずっぱりだったビリーの周囲の人物たちに関してすら、ネットでざっくり調べた感じだとほとんど書かれてなかった。劇中では彼女のそばにずっといたジミー・フレッチャーという男の話もほとんど初めて知られるようなことばかりで、これは本当の話?というのが、最初の疑問だったけど、これが事実とするならば言葉を失う。白人捜査官が、アフリカアメリカンの男性を口車に乗せてスパイ活動させることが他の映画でもままあるが、彼もその一人だったんだろうなと思う。生活や命のためにやったことなんだろうし、そのあと大体生涯かけて後悔してる人も多い気がする。

「奇妙な果実」を歌わせないことを白人たちがしつこく執着すればするほど自分達のイカれたプライドがあらわになっていっているのに気づいてないのが怖すぎるし、死にかけてる彼女を病室まで追いかけ回して逮捕するなんて正気の沙汰では無い。薬はダメだというのが大前提だけど、それがもし曲を歌わせないための罠だったんだとしたら人間の所業ではない。自分たちをまともに見たら惨すぎて、そこから目を逸らすためにビリーに執着してたんだろうなと思えてくる。
彼女は薬で紛らわさないといられなかったほど、生い立ちや環境がひどかったんだとも思う。

どんだけのことがあっても、歌に関しては芯が真っ直ぐで、そんなビリーを演じたアンドラデイの表現も素晴らしく、「奇妙な果実」をついに歌うシーンは息を止めて見そうになる。そのシーンに繋がるまでのロングショットも名場面と言っていいものか、目を見張るような忘れられない場面だった。

そんな壮絶な内容が根底にはあるんだけど、街と衣装がとにかく綺麗なのも素晴らしかったと言いたい。ビリーも愛用していたというプラダのサポートによる衣装がとにかく可愛い。あと基本フィルムで撮ったような色彩と、靄がかかったようなライティングがキラキラしていて、雨の中、ビリーがネオンが輝く街の中を犬を抱えて歩くシーンがめちゃくちゃ綺麗。街のネオンは多分セットじゃ無いよな?あの美しさも忘れられない。

映画のベースとなった事件を取り締まってたアンスリンガーという男に関しては、こういう人に限ってムカつくくらい長生きするし、周りが離れていってもしつこく同じ位置に留まり続けている悪の根源のお手本みたいな人だなと思った。
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