湯っ子

異邦人 デジタル復元版の湯っ子のレビュー・感想・評価

異邦人 デジタル復元版(1967年製作の映画)
2.6
中坊の頃に読んだ「異邦人」。内容を理解していたとは思えないけど、「今日、ママンが死んだ。」っていう書き出しに心を奪われて読み進んだことは覚えている。
この物語の舞台が植民地だった頃のアルジェということは今回知った。浜辺でのムルソーが殺人を犯すシーンや太陽の眩しさは、私が持っていたイメージにとても近かったと思う。
だけど、裁判のシーンに対する強烈な違和感を感じてからは、集中が削がれた。裁判で追求されるのが、ムルソーの犯した殺人についてではなく、母親の葬儀の時に冷淡だったということばかりというのもおかしいのだけど、被害者への視点が全くない。裁判にも被害者の家族は出席していない。ムルソーが殺したのはアラブ人。陪審員や一般の傍聴席にアラブ人がいないのはわかるとしても、被害者の家族なり友人なりは出席させてもらえないのだろうか、ということに気を取られてしまうと、死刑の判決にも、独房での司祭との対話にも何も感じられなくなってしまった。被害者が彼らと同じ白人だったら、裁判の内容も違っている気がする。そういう時代だったんでしょうけど。
こんな風に思ったら、神を信じないムルソーに怒りと非難を向ける人々も、何かっつーと「無意味だ」って言ったり、処刑の場で人々に憎悪の叫びを上げさせたいと思うムルソーにも、急激に興味が失せ、心が動かなくなってしまった。
原作は違うのかな?でもなんか、あまり追っかける気にはなれない。

<一晩明けての追記>
追っかける気になれない、と言いつつネット上やYouTubeでカミュのことを少しお勉強しました。本作の主人公ムルソーとカミュを同一視していましたが、全く別人格のようですね…当たり前か。アルジェ生まれのフランス人というのは、日本に例えると在日コリアンの人みたいなのかなと思いました。「ペスト」くらいはちゃんと読まないと(と、思うだけかもしれない)。
湯っ子

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