石川

異邦人 デジタル復元版の石川のレビュー・感想・評価

異邦人 デジタル復元版(1967年製作の映画)
4.5
めっちゃ面白かった。
こういうあらすじを追うだけじゃなく価値観を揺さぶってくるのすごいと思う。
自分がどうしてそんなことをしてしまったのか正確に説明できないことなんてよくある。
上手にその場に相応しい嘘をつければいいけどそうできない人もいる。
自分はそうできなくても相手には関係なく、取ってつけたような理由付けをされてしまう。
母親の葬儀で涙を流さなかった。葬儀の次の日に女性とデートをしてコメディ映画を見て一晩を共にした。良くない人間と親しくしている。
ムルソーは誠実な人間である一面があるにも関わらず、無神論者であることを理由にその全てが不利な見方をされてしまう。

このようなコミュニケーション不全は誰にでもあることだと思う。
例えば小さい子供は、自分の考えを上手に説明できなくて分かってもらえず泣き出してしまったりするし、大人だってコミュニケーションが得意な人ばかりではない。
単純化してしまえばこのような人間関係の難しさを、無神論者の殺人という作劇上に配置した時、それは人間そのものや宗教といったとても大きなスケールで物語は展開されることにより、人間の真に迫るもののように感じられて見応えたっぷりだった。

ムルソーが殺人をしてしまった理由は、相手がナイフを持っていたから咄嗟に銃を出したところ太陽の光が眩しくて思わず撃ってしまった。その後4発撃った理由は自分でも分からない。「太陽が眩しかったから」そうとしか言えないもどかしさ。
嘘でも適当な理由で言い訳したり神を信じてると言ってでも命乞いしないのは、古今東西の物語の美徳であるように感じる。
そのような美徳はフィクションでもリアルでも結局損になったりするが、それでもこのような物語が美しいのは、人間は誰しもそのような美徳を善としていることに他ならないと思う。

ヴィスコンティ、若者のすべてに続き大当たりでした。
石川

石川