荊冠

アメリカン・ユートピアの荊冠のレビュー・感想・評価

アメリカン・ユートピア(2020年製作の映画)
3.5
演劇、音楽ライブ、パフォーマンス、舞踏、空間芸術……どの言葉をとっても当てはまらない、否そうしたすべての枠組みを融合あるいは超越した舞台を映像で見ることができ感無量である。ライブ映画というものを初めて観たが、今回むしろカメラが入らないとわからりにくい演出や隊列の動きがあったため満足だった。客席で立ち上がって踊ったり拍手ができないことはもどかしかったが。
都会的な神経症ーーかつてトーキングヘッズに与えられた形容をまさに連想させるような片鱗を時折見せながら、デビッド・バーンはより大きな人類のテーマへと還元されている。僕はグローバルな説教を孕んだ作品に警戒心を覚えるが(大抵それはエゴあるいは具体性を欠いた夢物語が先行しすぎて作品と呼ぶには拙く、そのメッセージは言葉足らずに終始するからだ)、このアメリカンユートピアは別だったのが嬉しかった。訴るなら共感を求めねばならない、怒るなら何もかも突き放すほどのパッションがなければならない、バーンはそれをよく理解し、舞台でやりとげていた。彼は従来のカリスマ性、お茶目な愛らしさを見せながらも、一方で人付き合いの悪さーー天才は孤独であることの自嘲を演じた。そしてその孤独は演者、演奏者たちの協力なくしてはありえなかった。個性光る彼らは舞台を盛り上げながらも、決してバーンより目立たず、バーンと馴れ合いもせず、適切な距離と高度な技術をもって、新しいユートピアを顕現せしめた。このライブのほとばしる魅力は、彼らなくしては決して成り立たなかったと思う。
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