ジェイコブ

アメリカン・ユートピアのジェイコブのレビュー・感想・評価

アメリカン・ユートピア(2020年製作の映画)
4.8
デヴィッド・バーンのショーの幕が開く。彼はプラスチックの脳を持ち、人と人との繋がり、そして世界の諸問題に思いを馳せた曲を歌い、バンドと共に演奏する。ショーが終わったとき、人々は理解する。ユートピアは「You」から始まり、あなたなしではなり得ない世界なのだということを……。
「ブラックグランズマン」のスパイク・リー監督最新作。2018年にデヴィッド・バーンによって出されたアルバム「アメリカン・ユートピア」が発売され、2019年に同タイトルのショーがブロードウェイで開かれた。監督であるスパイク・リーはバーンからショーに招かれて鑑賞した所、映画化の可能性を感じたという。バーンのショーでは当時のトランプ政権によって進められていた移民の排除や、同大統領による差別的な発言の横行に対して徹底したアンチテーゼを貫いており、スパイク・リーが監督した「ブラックグランズマン」で描かれたテーマを、ある意味究極の形で昇華したものと言える。
彼らのいる舞台、それは我々が住む「世界」の象徴であり、彼らのショーは理想郷の姿そのものなのである。多様な人種、LGBT、移民の人々によって形成されたバンドによって奏でられる音楽は、例え曲を知らずとも不思議と多幸感に包まれ、2時間があっという間に終わる。
本作の中でバーンが繰り返し語る言葉が「つながり」であり、それこそが彼らの描く理想郷を紐解くキーワードなのである。人には可能性があり、それは人と人との「つながり」によって初めて完成する。彼らの理想郷、それは自分の中で完結する世界に価値はなく、自分と違う他者への理解こそが大切だ。そして世の中の問題に無関心でいてはならない、自分達で政治を動かそうとも伝えている。
大きな特徴として、彼らは「生」の音にこだわりを持っていることだ。そして、電子を使うことで生じるコードの制約に縛られることなく、縦横無尽に舞台上を駆け回る事ができた。彼らにとってのコードは、観客にとっての「SNS」にも思える。コード(SNS)に縛られることなく、自由に舞台(世界)を歩き回り、様々な人々と生で会う。そうする事こそが、自分にとっての理想郷を実現する手段であると、表していたのではないか。
コロナやSNSの台頭によって、人と人との真のつながりの意味が見直され始めている昨今。本作はそんな現代に生きる全ての人に刺さるライヴ映画である。ビリーのドキュメンタリーと並び、映画館絶対推奨の映画。