マムトム太郎

アメリカン・ユートピアのマムトム太郎のレビュー・感想・評価

アメリカン・ユートピア(2020年製作の映画)
4.5
スパイクリーがどうしてこういうライブ映像のような映画を撮るのか、前提情報がない段階ではわからなかったが、見てみてたらよくわかった。デビッドバーンを中心にした多人種のアメリカ移民による音楽の響宴。多国籍な人々が純粋に音楽で繋がる心地よさと平和さがこの映像には満ち溢れている。まさにこれはスパイクリーの案件だ。
ただこの舞台はそういう思想的な主張の正当性で成り立っているのではなく、音楽のクオリティの高さが何よりも見どころだ。正直、クチパクなのではないかと思うくらいのスタジオレコーディング水準の演奏。インタビューでは「クチパクでしょ?」ってたびたび尋ねられるって、デビッドバーン自体が述べるくらい。そもそもアンプに繋がるコードもなく、サウンドの返しもなく、自由に動き回って、これだけのクオリティの演奏をするのって、どういうことなの?って思ってしまう。演者の能力だけでなく、裏方のPAや照明スタッフのスペックが凄まじいというのが理解できる。こういう公演をさらっとやっているブロードウェイは格別だよね、やっぱ。
何より印象深かったのは、このバンドが何よりも社会的なイシュー、つまりは差別や人種の問題について言及しながらショーをしているところ。ミュージシャンが政治に意見を述べるなと言われる日本ではありえない。でも、本来はこれがミュージシャンの姿。正しいことを、正しくやる。
かたや、五輪で起用された日本を代表されるはずのミュージシャンは、障害者いじめを嬉々として語るような輩。なんなのこの落差は?と思わざるを得ない。社会的喪失感につながる。
なんか日本のミュージシャンには、自由人だし、かっこよければ良いでしょ?倫理観なくても。というような風潮があるけど、もうそういうのはもう限界でしょう。というのも心底感じた映画でした。