ジェイコブ

レミニセンスのジェイコブのネタバレレビュー・内容・結末

レミニセンス(2021年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

地球温暖化の影響で海面上昇が起こり、水の都と化した近未来のアメリカ。戦争や賄賂、殺人により街も人の心も荒廃していた頃、人々は自身の幸せを「過去の記憶」に求めるようになった。退役軍人のニックは、同じ退役軍人のワッツと共に「過去」を求める人々に記憶を見せる記憶潜入捜査官を生業としていた。ある日、二人のもとに職場の鍵を無くしたから記憶を辿って見つけたいと話す女性メイがやってくる。メイに一目で心惹かれたニックは、メイの力になるべく、彼女の記憶を辿り、鍵を見つけ出す。その後もニックはメイの元を訪ね、二人はやがて恋に落ちる。幸せな日々も束の間、ある日メイはニックの前から姿を消す。メイを探すため、自身の記憶に入り浸るようになるニックを気に掛けるワッツは、ニックの気を逸らすべく、検事からの捜査協力依頼を持ってくる。メイの事で頭が一杯で、気が乗らないニックだったが、捜査対象者の記憶を辿ると、そこにはメイの過去の姿が映っていた……。
ヒュー・ジャックマン主演、「ウェストワールド」のリサ・ジョイが監督と夫のジョナサン・ノーランが制作を務めた(ワッツ役のタンディ・ニュートンもまた、「ウェストワールド」で娼館のオーナーメイヴを演じている)。
クリストファー・ノーランの弟であるジョナサンが制作ということもあり、「インセプション」の二番煎じくらいの期待値で観に行ったら、良い意味で裏切られた。この手のSF作品ではおざなりになりがちな伏線の回収もきちんとしているし、ラストにかけてのまとまりも、ストーリーの筋も分かりやすく、難解さが歓迎される兄のクリストファーとの差別化がなされている。
本作を紐解く上でキーワードとなるのが、「オルフェウスの物語」である。ギリシャ神話で内容は、妻のエウリディケを失い、悲しみに暮れるオルフェウスが冥界を訪れ、冥界の王ハデスと取引をして、「冥界から出るまで後ろにいる妻を振り返らない」という条件の元、エウリディケを連れ帰る許可を得たというもの。本作でもニックがメイに語る物語であるが、ニックがメイに語る結末は、真実とは異なる。ニックは「二人は地上に帰り、幸せに暮らした」と話すが、実際は「不安に駆られたオルフェウスが冥界を出る直前に振り返ってしまい、妻を永遠に失ってしまう」のだ。ハッピーエンドの物語は存在しないとするニックに対し、メイは幸せな結末を求める。そんな彼女を見たニックがついた細やかな嘘だった。そしてその嘘は、後にニックが選択する未来に大きく影響してくる。
人は過去に生きたがる。年を取ればそれは尚更で、居酒屋で年配の人達が盛り上がる会話が大抵過去の話であるのを見ればそれは明らかだ。過去か未来、どちらに幸せを求めるかは人それぞれだ。ニックのように過去の中で永遠に生き続ける「未来」を選ぶ人もいれば、ワッツのように過去と向き合って未来を作る事を選ぶ人もいる。オルフェウスは振り返ってしまったことで悲劇的な結末が訪れたと描かれたが、ニックにとってはメイのいる過去を振り返り続ける事がハッピーエンドなのである。
一人の女性に固執するヒュー・ジャックマンの狂気的な姿は、プリズナーズを彷彿とさせる。ただニックは後先考えずに動くにしても、ボコボコにされてるシーンばかりが目立ってしまっているので、もう少しマッチョな身体が活きる強さがあってほしかった。