こたつむり

サイトレスのこたつむりのレビュー・感想・評価

サイトレス(2020年製作の映画)
3.5
♪ 真実なんてものは僕の中には何もなかった
  生きる意味さえ知らない

いわゆる“検証系”である。
何が“真実”なのかを見極めよ、と言われているのである。いや、映画自体が直接言っているわけではないが、そう言われていると受け止めることができる、のである。

その辺りを踏まえたほうが“真実”は近いのである。いや、場合によっては遠くなるかもしれないが、近くなる可能性は高いのである。その差は微々たるものかもしれないが、5㎜の段差で人は転ぶように、意識の違いも大切である。

だから、前提条件は入念にチェックするのである。「主人公は視力を失った女性」「彼女は何かしらの事件に巻き込まれた」「家族は遠くの地にいる弟だけ」「夫とは紆余曲折あって別れた」「音楽家である」…これらが序盤で分かる条件である。

しかし、これ以上にもっと重要なことがある。
それは主人公の性格である。確かに一方的な暴力により、日常から切り離された…という経緯は同情の余地はあるのだが、とても神経過敏になっていて、なかなか寄り添えないのである。

つまり、主人公も信用できないのである。
信用できない語り手を用いるのは叙述ミステリの常套手段ゆえに、我々も注意しなければならないのである。前提が間違っていれば答えを間違う可能性は高いのである。

そう考えると観客も視力を失ったと言えるのである。何が答えか分からないまま、手探りで壁を伝いながら歩くことに“不安”が先立つのは当然だし、着地点が予想できたとしても「それで良いのか」と倫理が反対する可能性も否定できないのである。

だから、本作は傑作だ、とも言えるのである。
主人公と同じ境遇に落とされる…その不安感を描いたのは見事なのである。

但し、それが面白いかは別の話である。
物語を成立させるために強引な手段を取っているのも否めず、昨今の観客は“リアリティ”を重要視するので、そこで引っ掛かってしまうと駄作になる可能性もあるのである。

まあ、そんなわけで、ある。
ひねもすのたりのたりかな、と、捏ね繰り回すのが大好きな人にオススメしたいサスペンスである。ゆえに考えるのが嫌いな人、明確な答えが欲しい人にはオススメしないのである。
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