NM

クエシパン ~ 私たちの時代のNMのレビュー・感想・評価

4.0
クエシパンはインヌ(イヌー)語であなたへ、あなたの番、という意味だそう。
馴染みのない舞台ではあるが基本的には若者が自分の道を選択していく普遍的でシンプルな物語。
昨今盛り上がりを見せるイヌー文学。

カナダの北部、先住民(ケベック州だけで約10万人)インヌ族たちが集まって暮らす居留地(経済保護を受ける代わりにそこへ住むことを義務付けられている)。もとはテントを張りながらトナカイを飼って移住していた民族だ。
他のカナダ人(ケベック州の8割がフランス系)たちと共生する上では時に問題も起こる。
先住民だって全員考えが一致しているわけではない。
そこに生まれた少女たちが、友情や恋愛を経て成長し、自らの道を切り開いていく。

色んな人たちが出てくるが、善人悪人という二項対立ではなく、多面的で深みがある。様々なタイミングを経て、友人になったり恋人になったり別れたりしていく。
人生色々な時があるが、それを経てどういう選択をするか。芯をぶらさず生きるのか、柔軟に対応するのか。最後にどこへたどり着くのかはあまり考えすぎなくてもいいのかもしれない。その時の最善を尽くす方が大事に思った。

優しそうなフランシスが、段々とコミュニティのゴタゴタに取り残されついていけなくなり、二人に距離ができていく様子が若々しくリアル。本当の愛を誓ったつもりでも、ちょっとケベックシティーには行きたくないかも、という名目であっさり壊れてしまう。
実際この地域はあたたかいだけでなく、改善しつつあるとはいえ失業や麻薬問題、DV、自殺など問題はしぶとく続いているそう。

ミクアンとシャニスはてっきり同じ価値観の持ち主かと思って観始めたが真逆。
シャニスの方はこの土地や文化、誇りを守りたい。シャニスは幼い頃から母が酒浸りで生活が常に不安だったからとにかく家族が欲しいという気持ちはわかる。
ミクアンは勉強や恋愛を経て、この居留地を小さく感じるようになっていく。ミクアンは裕福ではないが家族に恵まれて育ったので、安心して冒険に行きやすい環境とも言える。
守るべき伝統と新しい文化との葛藤のシーンはよく登場した。
彼らは定住することによって逆に居場所のない感覚を覚えているのかもしれない。ミクアンは学校へ行けば「居留地から来た子」と呼ばれ居留地に戻ると「都会気取りの子」扱いされることもしばしば。

もとになった小説を書いたのはこの居留地で生まれた女性。母子家庭だが幼い頃から都会に移住し、ケベック市の名門に通い、地元で教育活動をしている、ミクアンとシャニスの要素を持ったような女性。
NM

NM