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マダムのSPNminacoのレビュー・感想・評価

マダム(2019年製作の映画)
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実業家として成功した祖母とゲイの孫。ブルジョワ家庭で父が撮影したフィルムと、孫が撮った90歳の祖母。これはフィルムに撮られず語られなかった、おばあちゃんと僕の歴史。
時代も環境も立場も違うけれど、2人の経た道のりは重なるところがある。女だからという抑圧、男であれという抑圧。どちらの場合も男尊女卑の父権が支配する呪いだが、当時は極端な例じゃない(今でも珍しくない)。ブルジョワであっても。
望まぬ結婚出産を強いられ、学ぶことを許されず、それでもビジネスで財を成し自分の人生を築き上げていった祖母。期待される一人前の男になろうとホモフォビアやミソジニーや右傾化に走り、それでも男の子に恋い焦がれる孫。やがて孫が自分を受け入れ、家族や祖母が彼を受け入れる日まで。
しかし、裕福で父親が監督志望だったからとはいえ、これだけ自分の映像が残ってるのはすごい。80年代の青春にはリバー・フェニックスと『いまを生きる』、そしてテクノカット…ただ、それを振り返ること自体が本人にとってどれだけ辛いかも、声を通してすごく伝わる。
おばあちゃんの人生を若き日々の自分と重ね合わせる編集は、年を経た今だからこその視点。楽しげに撮られた虚像に、傷つき封じ込めてきた声と、そんな孫を呼び続けるおばあちゃんの声が被さる。尊敬を込めてマダムと呼ぶ、確固たるおばあちゃんの肖像であると共に、そこには個人史に留まらない、抑圧される立場の人々を包括した歴史が見える。
(ジャケット写真がどこかのボスみたいだけど、実際は上品で年相応に保守的で元気なおばあちゃんでした)
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