カタパルトスープレックス

オーソン・ウェルズのフォルスタッフのカタパルトスープレックスのレビュー・感想・評価

3.0
オーソン・ウェルズが活動の場をヨーロッパに移してからの作品です。オーソン・ウェルズはシェイクスピア作品の映画化を多く手掛けましたが、本作はシェイクスピア作品でも特に人気のあるキャラクターである巨漢の騎士フォルスタッフを題材にしたものです。

本作は素晴らしいポイントと、あまり素晴らしくないポイントが非常に明確だと思います。まず優れた点から。

オーソン・ウェルズはとても優れた映像作家だと思います。構図の撮り方やモンタージュのつなぎ方。アメリカ時代から素晴らしかったです。『市民ケーン』(1941年)でもそうですし、アメリカ時代最後の作品『黒い罠』(1958年)でも同様です。

ヨーロッパに移ってからは、とてもヨーロッパ的な映画を作るようになりました。本作もどことなくモンティパイソン的なんですよね。コメディーなのにヨーロッパ的な洗練され方をしている。

つまり、表面的な部分に関して、本作はとてもうまく作っていると思います。続けてあまりうまくいっていない部分です。

まず、ボクはそれほどシェイクスピアに詳しくないし、ほとんど作品も読んでません。だから、フォルスタッフがどれくらい魅力的なキャラクターなのかよくわかっていません。本作でフォルスタッフを演じるのはオーソン・ウェルズ本人です。確かに愉快なキャラクターだとは思うのですが、それほど魅力的な人物だとは思いませんでした。元が悪いのか、演技が悪いのか、はたまた演出が悪いのか。

ストーリーもいまひとつ盛り上がりません。主人公には困難がつきものです。本作であれば放蕩王子ハル(キース・バクスター)が困難に立ち向かい、フォルスタッフが付き従うってことなんだと思います。しかし、立ち向かうべき困難がいまひとつよくわからない。これも土台となっているシェイクスピアの戯曲を分かってないからなのかもしれません。

比較の対象として正しいのかわかりませんが、本作の一年前に公開された フェデリコ・フェリーニ監督『8 1/2』(1963年)と比べると見劣りしてしまいます。映画技法は同じくらい素晴らしいのですが、内容が薄い。

ボクは映画においてテーマ、ストーリー、キャラクター造形を重視します。それに加えて映画技法も優れていれば言うことなし。しかし、本作の場合は肝心なテーマ、ストーリー、キャラクター造形がいまひとつ伝わってきません。これはボクがシェイクスピア作品に深い造詣がないからなのかもしれません。シェイクスピアが好きな人だったら楽しめるのかも。