よしまる

赤頭巾ちゃん気をつけてのよしまるのレビュー・感想・評価

赤頭巾ちゃん気をつけて(1970年製作の映画)
3.6
 昨年亡くなった東映の会長、岡田裕介氏の俳優デビュー作にして庄司薫の「赤・白・黒・青」4部作の1作目の映画化。

 60年代末安保闘争時代の日本をまるでドキュメンタリーのような趣で楽しめる。
 例えば実録ヤクザ闘争!みたいなものがあるけれど、実録モラトリアム真っ盛りの少年の1日!的なw

 オープニングは東大紛争の実際の映像から始まる。黒澤明の主要作の助監督を務めてきた森谷司郎によるハードな社会派ドラマ、かと思いきや、そのおかげで東大の入試は中止になるわ、愛犬は死んじゃうわ、風邪ひいて調子悪いうえにつまずいて足の爪を剥ぐわという踏んだり蹴ったりなドジっ子高校生、主人公の薫くんのダラダラとしたモノローグに取って代わられる。

 原作小説は、薫くんの一人称で語られ、他愛のないことを周り口説く説明したり、例え話を用いて自分の見解を述べたりと、まあラノベと文学作品の境界もぼやけてきた現在ではありふれた語り口で要するに西尾維新的な感じなのだけれど、これが当時は新鮮に受け入れられたらしく、それを真摯に映像化したのが本作といえるかもしれない。

 保健室のなぜかエロエロな女医さんにメロメロになっても、肝心の彼女には手も出せず、トップレスで踊る子がいるような乱痴気ゴーゴーパーティーでモテてもやっぱり童貞、そんな些細な刺激を映像として丁寧に見せている。小説から2年ほどで映画化されているので、当時の東京の様子が手に取るようにわかるのもいい。
 七人の侍など黒澤作品の重鎮、中井朝一が銀座でゲリラ撮影。タクシーに轢かれそうなっても「轢けるもんなら轢いてみろ」といきがる薫くん。学生運動から距離を置き、それゆえに行き場を失って鬱屈するしかない若者が雑踏から浮いている姿を見事に捉えている。

 彼女と食事中に、窓の外の企業の看板を順番に読んでいくシーンもなんか好きだw
 映ってるだけで画面が華やぐタイプのヒロイン、森和代。この作品を含めわずか2作で森本レオと結婚して引退してしまうなんてもったいないことこのうえない。
 このジャケ写すごくいいんだよなぁ。目ヂカラ。

 誰もが我が国を憂いて学生運動に参加し、本気で世の中が変わると信じていたと思われた(挿入されるニュース映像を見てもこれがわずか50年前の日本とは信じ難い)ころ、時代に取り残されたかのようにやるせ無い思いをしていた若者が実はたくさんいた。
 岡田裕介本人が、明るく笑顔で終わるはずのラストシーンを森谷監督に直訴して改変したという逸話がそれを何より物語っている。

 個人的には小説では4作目の「ぼくの大好きな青髭」がもっとも好きなのでいつか映画化されないかなと期待している。

 あと、どうでもいいけれど、20代の中尾彬が薫くんのお兄さん役で出ていて、ネクタイの緩め方が既にステキ。
 ほんとにどうでもいいw