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パーフェクト・ケアのsomaddesignのレビュー・感想・評価

パーフェクト・ケア(2020年製作の映画)
5.0
「ゴーンガール」以来のロザムンド・パイクの新たな代表作
悪役が魅力的に活躍する映画にハズレなし

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マーラの仕事は高齢者の成人後見人。認知症の高齢者の資産を守り、ケアすることで報酬を得る。多くの顧客を抱え、裁判所からの信頼も厚い彼女だが、実態は主治医や介護施設と結託。裕福な高齢者を認知症に仕立て上げて、資産を搾り取る悪徳業者だった。順調にビジネスを進めるマーラだったが、新たに資産家の老女に狙いを定めたことから、歯車が狂っていき……。

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原題「I care a lot」。邦題の「パーフェクト・ケア」で検索すると化粧品ばかり出てきて、映画の背景が調べられない問題。

やー、面白かった!
いまやロビン・ライトと並んで、美しく強くておっかない女性の代表格ロザムンド・パイク。てっきり「後妻業の女」みたいなクライムコメディを想像してたら、現実の介護ビジネスの闇に滑り込むような側面もあって、いろんな角度から褒めそやしたい。

後見人制度とは、なんらかの事情により当人が自分に関する重要な決定を下せないと裁判所が判断したとき、財産や法的な管理を別の人に任せるというもの。本作とは少し形は違うけど、思い出されるブリトニー・スピアーズの成人後見人裁判。本人不在の後見人制度の危うさが見て取れる。図らずも今作の予習に見といて良かったNetflixドキュメンタリー「ブリトニー対スピアーズ」。

リドリー・スコットの「悪の法則」をポップに分かりやすく解きほぐしたように思えた。マーラ自身、自分が弄んでる悪事のツケや、怨嗟の恐ろしさが分かってないし、彼女を守ってくれるはずの法律や倫理なんざ知ったこっちゃない世界がずっとずっと広がってることを忘れてる。功利主義へのカウンターパンチのようでもあるし、翻って暴力や脅しが解決策となるマチズモの恐ろしさやしょうもなさも見えた。

個人的には、親の面倒なんてめっきり見てないし、自分から連絡することもない。冒頭のマーラの嘆きは、無責任な子世代でもある自分に向けられたものに聞こえて耳が痛い。悪魔の名前をつけられてるだけあって、人を誑かすことにかけては随一。向かうとこ敵なし。

ストーリーの明快さと緻密な映画的暗喩表現が多層的で面白かった!
マーラの服の色。勝負服の赤と清廉さを強調する白。基本この2色しか着ないことが大オチのフリになってて、因果応報のループに思えた。マーラ自身の奸邪を通じて世知辛い世間を象徴する赤と、それを覆い隠す軽薄な白のコンボが面白い。「嘘と情熱は同じ色」…じゃないけど、最後のマーラ自身の色で白を染める暗喩が素敵。

真っ赤なマーラの衣装の対になるような電子タバコの白い煙。マーラが動揺を隠すために吸ってたり、相手を煙に巻くバリアの役目になってた。なかなか腹の底を探らせない主人公にあって、唯一心の動きを窺い知る手掛かりになるだけじゃなくて、手軽に悪いことを弄んでるマーラのキャラを補強する役目もある。

フランは大事なパートナーに違いないけど、マーラにとって恋愛対象ってより大事なペットとして扱ってる感。マーラにとって対等な関係はあり得なくて、支配or従属以外の関係性がないっぽい。心通わす相手じゃなくて愛情の捌け口として便利に使ってる感じ。どうやったらあんな強い女性が育つのか、マーラの生まれ育ちのスピンオフが見たくなる。

フード描写はあまり多くないけど、ローマンのお菓子が印象に残る。ローマンの溢れる愛情の象徴だし、恐怖のビッグボスの弱みの暗喩でもある。ヤ◯ザ映画の盃みたいな意味付けもされてる。おっかない風貌とかわいいパッケージのギャップがコミカルなのも嫌らしくて素敵。終盤出てくるエクレアが超美味そうだけど、毒饅頭っぽくもあってなかなか油断ならない。……もしかしてローマンは、あの結末も織り込み済みだったのか?


76本目
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