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こぼれる記憶の海でのkmiwのレビュー・感想・評価

こぼれる記憶の海で(2020年製作の映画)
4.2
原題はLittle Fish。
それは幸せの記憶の象徴。

もしこれからこの作品を観る人がいたら、オープニングの海から始まる数分間をきちんと覚えておいて欲しい。

ストーリーが進み最後まで観たときの胸の締め付けられ方はハンパない。

このお話しは、記憶障害をもたらす病の流行で混乱した世界の中、発症してしまった夫の病の進行を止めようと努力する妻が主な語り手である。

派手な演出もなく、出会いから結婚、そして発症した後の生活を静かに綴っていく。

夫の記憶障害は少しずつ進行していくのだが、進行した認知症の症状を描いた「ファーザー」とはまた異なる怖さ。
2人はまだ若くしっかりとした記憶があり、それがゆっくり失われていく困惑と悲しさと、その中で改めて理解した互いの愛情が描かれている。

トーンは淡く台詞も比較的おだやかであり、全体的に美しい作品だが、主題として突き付けてくるものはシャープで心が削られる。

いつかは失なってしまうかもしない。
平凡な一日一日は、思っている以上に美しいのかもしれない。
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