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たゆたえども沈まずのtakeachanceのレビュー・感想・評価

たゆたえども沈まず(2021年製作の映画)
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テレビ岩手が製作・配給した
東日本大震災10年のおける記録映画。
1850時間に及ぶ取材映像を
103分に凝縮したドキュメンタリー。
2011年当時、避難所などでビデオメッセージを撮影した
被災者を再訪し、復興への道程を振り返る。

津波にさらわれて水没した車の電気系統がやられて
誤作動でクラクションが鳴りやまないあの場面、
女性の金切り声のような、脳に刻み込まれる感覚に陥った。
生まれ育った街が真っ黒の濁流に飲み込まれていく
一部始終を全て目撃してしまった人間たちの想いを考える。

行方不明になった夫の死亡届を
ようやく役所へ提出する決心がつきながらも、
後を追うように亡くなった女性が特に印象深い。
カレンダーの裏に夫への手紙を書き綴っていた彼女。
「霊談」の文字があったので、
恐山のイタコのような口寄せに頼っていたんだろう。
精神的に不安定な状態にあったことが容易に想像できて
胸が締め付けられる。

もしも自分があのような災害に遭ったとして、
前を向ける精神力はあるだろうかと考え込んでしまった。

つらさ、悲しさは誰もが抱く感情であり、
心中を推し量ろうとするも、
その気持ちになりきれるとは言えない。
共感できると言い切るのは失礼のような気がするし、
置かれた状況はひとりひとり違うのだから。

ラストに3月11日が誕生日の被災者を持ってきたのは良かった。
誰かにとって祈るべき日は、誰かにとっての誕生日であったり
何かの記念日であったりもする。
3月11日は前を向いて生きていく日常のなかの一日であり、
他と一緒、普段と同じ一日なんだと映画は気づかせてくれる。
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