とむ

14歳の栞のとむのレビュー・感想・評価

14歳の栞(2021年製作の映画)
3.8
2022年、邦画界のダークホースとなった怪作「MONDAYS」の竹林亮監督の長編デビュー作はまさかのドキュメンタリー映画!

但し、おおよそ大多数の人が「ドキュメンタリー」と言われて想像するイメージとはかなり毛色が異なっていて、ポップな編集・音楽選びは、なるほどMONDAYSで存分に発揮されたテクニカルな作家性を感じました。

特に顕著なのが明らかに"演出"された映像技法の数々で、作風は全然違うけど森達也作品や「世界の果ての通学路」にも通ずる作為的なカメラワークや、
「千年の一滴 だし・しょうゆ」「築地ワンダーランド」みたいにバキバキに決まったかっこいいカット割も多く散見されて、
それらが海外監督なのに対して日本の監督が撮った映像からそういう印象を得られたことに素直に興奮しました。

冒頭馬の子供が生まれるシーンなんかは北欧映画みたいな質感にハッとさせられ、
その後の"群れ"と化していく動物たちのカットバック。勢いが増して増して最後に少女の表情がドン!と映し出されるという流れの時点で一気に引き込まれました。


その後も油断ならない表現が練られていて、
例えばクラスを覗き込む冒頭の視点が「丸窓から覗いたクラスのカット」になっていて、
アイリスイン・アウト(昔のアニメとかでキャラクターの顔に丸く閉じていって終わる、みたいな表現)的な、実は「フィクショナル(作為的)」な作品であることを示唆した表現なのかな?と思ったり、
考えすぎかな〜と観進めていたらラストの修了式では丸窓のある扉側ではなく、教室横の大きな窓からクラス全体を覗くショットがあったりと、
「もはやこの物語がフィクションではなく、自分たちにとってもリアルなものとして捉えざるを得ない映像に転じてしまった」という監督の思いだったりするのかな、と勝手ながら解釈したりしてしまいました。

それは、スーちゃんの「見られてると(油絵が)上手く描けない」という発言が終盤に挟まれる点や、
エンドロール後の「いつまで撮ってるんすか?」というインタビュー以外で初めてカメラを意識したやりとりとかが象徴している気がしました。

この時点で
参った、こりゃー名作だぞ…
と襟を正さざるを得ませんでした。


勿論、単純なドキュメンタリー作品としても相当クオリティが高くて、
整った顔立ちの子が「他者からの視線」を意識しないが故に見せる気の抜けた表情や、
机の色がバラバラな教室の俯瞰の映像に妙な懐かしさを覚えたり、
グンジの「将来は多分公務員やってる」という変に現実的な発言に笑いつつ、ある種の閉鎖したコミュニティに対する残酷なリアルさを感じで少しドキッとしたりと、
どうしようもなく生々しい学生たちの"生態"がカメラを通してありありと伝わってくる。

それだけでなくめっちゃドラマチックなシーンもかなり多く、
「行け行け行け!」って言いながらチョコ渡す件りだったりとか、
手紙を渡した彼が結局あの場に来なかった感じとか実はめちゃくちゃ映画的な印象を受けた。
何だよお前ら〜〜青春してんじゃん!


ラストのそれぞれの生徒たちが見せる痛々しさも含んだ自意識の吐露の連続を見て、
この映画自体が大きなセラピーの過程みたいな感覚で見ていられるのもすごく面白く感じました。

もしかすると彼・彼女らにとっては、
竹林監督とのやりとりが初めて「理解しようとしてくれる他者」との対話だったのかなぁ、と思ったりしました。
思春期特有の理解不能なものに対して「意味わかんねー」と突き放す訳でもなく、
教職員等の学校関係者の大人によるある種「慣れ」のあるカウンセリングとも違う、
当人たちの事情やパーソナルな部分に興味関心をもってある程度歩み寄ってくれる、初めての存在だったのかもな…。

それを一番感じたのは、小学校3〜6年の間に仲の良かった友達が些細なきっかけで相対する関係になってしまったことが心の陰になってしまった少女の
「このクラスの人たちだって本当には分かり合えてない」というコメントに対して
「それを言われた、友達が傷ついてしまうのが心配」って伝えた時の「あー…」ってリアクション。

それが、彼女が初めて自分の考えを「客観」で意識した瞬間そのものにみえた。

そういう言葉や、途中途中で挟まれる
「きめーんだよこっちくんな!」とか、
「バカはバカで放っておけばいいんですよ」とかのある種の暴力性を孕んだ(もちろん本気の悪意ではない)言葉を将来の彼らがこの映像を目の当たりにした時に何を思うのか非常に気になるところではあるよね。
自分のふとした発言を客観的に見る時のスリリングさというか…

そう思うと、前述の「自分なんか…」って自信のなさを口にした生徒たちに対して、
「決して自分一人だけの悩みじゃないんだぞ」って背中を押す監督の優しさにも見える。


エンドロールで流れる映像はまさしく「しおり」を象徴している様で、
ページをめくり進む物語の瞬間瞬間を捕らえ挟まれる栞の如く、歩んでいく彼らの横位置から捉える様なカメラワークから、その後文字通り「見送る」様な画角で形で、彼らの青春の1ページは閉じられる。

いやいや、うまくできすぎでしょう!笑


あの時あいつはこう思ったのか…とか、
自分にももしかするとこういう可能性が…とか、
人生の布石回収を喰らったような作品でした。
とむ

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