春とヒコーキ土岡哲朗

14歳の栞の春とヒコーキ土岡哲朗のレビュー・感想・評価

14歳の栞(2021年製作の映画)
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子供に見えても、あの頃から人間だった。

こんな映画、二度と作れない。中学生のとあるクラスに50日間密着。そう聞いただけでもデリケートな年齢の子たちに密着を許す学校なんてそうそうないぞ、と思わされる。そして、実際に生徒たちが話す中身がこれまたデリケートで、プライバシーに触れる内容はさほどないが、クラスメイトをどう思っているか相手のいないところで本音を言っている様は中学生にとっては重大な秘密。いや、大人でもそうなんだが、特にそれが露呈してこじれたときの傷つきが中学生は大きいだろう。
また、将来のことを語るのも、本人たちはなんてことなくしゃべっているかもしれないが、後から見返したときに全然生意気なことを言っていたなと恥じてしまうんじゃないかと思う。かつての自分が思っていた「これくらいは普通にできているでしょ」のハードルを越えられる自分じゃなかった部分なんて、いくつもある。そのハードルの高さに気づかずにしゃべっていたときの様子を再生されたら恥ずかしい。

この映画は、配信や放送、ソフト化は今後もされないだろう。劇場公開のみで観客を絞って公開しなければいけない、中学生たちのリアルを垂れ流している映画。映画で「批判しないで」というのは本来ダサい行為だが、「出演している中学生についてネガティブな意見はSNSに書かないでください」という注意書きは、彼らの人生を守るためなのはもちろん、この映画がいかに個人的なリアルを映したものかを表していて、むしろ観客として「すごいものを見ているんだな」と満足度が上がる。


中学生って、こんなに色々考えていたっけ。
みんな、人間関係や自分について考えながら生きている。過去のトラウマから人に心を開けない子が「卒業して今の仲間と離れたい」と語ったのが印象的。他にも、世の中つまらないなと思ったけど自分が楽しめば楽しいと気づいて友達とはしゃいで遊ぶようになった男子もいた。中学生ってこんなに色々考えていたっけと驚きもするし、でも自分もそういう人間関係のいろはを感じてはいたはずだな、と思う。


いつ大人になるのか。
この映画の冒頭は、動物はみんな子供から大人になるが、人間も一緒、という主旨のナレーションから始まる。
大人になる瞬間っていつだろう、の答えとして一つ思ったのは、なんでも思い通りになるわけじゃない、と知ったときかなと思った。サッカー選手を目指すサッカー部の男子は、「プロを目指してるけど、正直ダメかなと思う瞬間もある」と言う。それでも、諦めずに前向きにやっている。体操部の女子は、「続けるとしても高校まで。それ以上続けるほどの才能はない」と、自分はプロになる人ではないと判断している。未来ある中学生がそんなことを言うのは悲しくもある。だけど、自分に向いている、続けられることが何か知るためにいろんなことに挑戦している時期としてはプラスだ。

人生は続いていく。
何か事件が起きるわけでもない映画。平な、その中で明るいことと暗いことを考えている35人の人生の中の、たった50日。彼らの人生の「14歳」のページに、ひとまず栞を挟んだだけ。エンドロールのあと、また来たカメラマンに「もう終わったんじゃないんですか?いつまで撮るんですか」とツッコむ生徒たち。カメラマンは「一生」と答え、生徒は「怖っ!」っとリアクションして終わる。冗談のようだけど、彼らの人生は中学2年生が終わっても、ここから長く続いていくことが示された大切なシーンだった。